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規格化された社会から自律する個人へ

最近「コンヴィヴィアリティ」という言葉をよく耳にするようになりました。落合陽一さんの影響ですね・・ 難しい概念なのですぐには理解できなかったのですが、私がよく考えているサステナビリティと親和性の高い概念だということがわかったので、考察をしてみました。

コンヴィヴィアリティ(conviviality):
<辞書的意味>宴会、陽気さ、上機嫌、共生
<学術的意味>自発的な個人が、人間的な創造性により、相互依存の中で構築される個的な自由。「自立共生」、「自律共働」。

コンヴィヴィアリティという概念を社会学の文脈で提唱したのが、オーストリアの哲学者イヴァン・イリイチです。1973年に「コンヴィヴィアリティのための道具(原題:Tools for Conviviality)」を出版し、従来型産業社会により、人間の自律性が損なわれているという内容の批判を展開しました。

イリイチの重要な主張として、技術や制度などの"道具"が発達したことによって人間は"道具"に順応することで支配される、という論があります。自動車が発展・普及することで都市は自動車移動に最適化されて、徒歩や自転車での移動が行いにくくなったり、学校という制度ができることで学校に行けない人に無教育のレッテルを貼ることを正当化できるようになったりします。なかなか強烈な主張ですが、規制の技術や制度が強固になるほど、個人性が埋没して、人間の中で規格化した領域が拡大していくという概念は理解できます。人間のために発明されたはずの技術や制度が、いつの間にかそれら道具を操作するために、人間が働かされる社会がいつの間にか形成されているという視点で見ると、日本の様々な課題にも新しい解決策が見える気がします。

発明された道具が暴走することで、社会の不均衡を生み出したり、地球環境に甚大な被害を与えたり、人間にもコントロールできないことが起こり始めています。石油を使わない世界、スマホを使わない生活、学校に行かなくて良い社会は、今の日本にはほぼ存在しません。望むと望まざるとに関わらず、"道具"を使う人にならないといけない。このような非自律的・不公正な世界に対して、イリイチは1970年代の時点ですでに警鐘を鳴らしていました。

そこでイリイチが提唱する概念こそが、コンヴィヴィアリティでした。自由な個人としての人間が、適切に制限された機能を持つ道具を用いることで、生き生きと自分の望みによって働く姿が、イリイチの提唱するコンヴィヴィアルな生き方です。効率ばかりを重視した道具の機能を適切なレベルで制限し、人々が自律的かつ自由に生きる社会を、イリイチは提唱しました。

技術により大量生産を続けてきた結果、社会は便利な道具で埋め尽くされ、個人が工夫をせずともインターネットを調べれば自分の望みのものが目に入る。モノや体験の溢れた世界の中で、インターネットという道具により常に欲求が刺激される。ECサイトは勝手な判断でおすすめ品をがなり立て、ウェブページの隅々には消費を駆り立てる広告がせわしなく流れ続ける。私たちは現代のそんな世界で、どれほど自律的に自由に行動できているのか。誰かが用意したカタログから選び続けている時間が無為に流れ続けているだけなのかもしれないと、ふと考えてしまいます。

コンヴィヴィアリティは大量生産を続けてきた現代社会に対して、個人のあり方に目を向けて、技術や制度などの道具に頼りすぎることのない、個人性が自律的に充実した社会を目指す考え方です。規格化された製品を作り続ける大量生産社会、生活の隅から隅まで策を張り巡らす管理社会に異を唱え、道具の機能を制限することで、個人は自分の身の丈にあった生き方を選ぶ権利を得ることができます。ここに、サステナビリティとの親和性があります。大量生産の影響による資源の枯渇と廃棄物の蔓延は、自然環境を大きく傷つけています。長年作られてきた技術や制度などの道具は、最大公約数を取る没個性的な大量生産と規格化された制度を拡大させ、大量廃棄とはみ出しものを許容しない社会を生み出します。一方でコンヴィヴィアルな社会は、道具の活動を適切なレベルに制限する知恵を持ち、没個性的な大量生産と制度を抑制する機能を持つことができます。

以上の議論は、現実社会の複雑性を廃した上での議論であり、イリイチは現実をラディカルなユートピアに変革しようと言っているわけではない、ということを断っておく必要があります。それでも、産業が暴走して大量生産が突き進むこの社会の中で、あえて道具に制限を設けることで、人間の個性と能力を解放し、社会が内側から自律されていくという姿は、サステナビリティが目指す姿とよく一致しています。自立共生と持続可能性。異なるようで、調和しそうなこの2つの概念が、この不確実で不安定なこの社会と地球環境を持続させるための、新たなヒントを与えている気がします。

【参考】


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