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防災・減災の新時代と気候変動

豪雨や台風、地震や火山噴火など、ほぼすべての自然災害の可能性を持つ災害大国日本において、どのような防砂・減災、そして国土強靭化を進めていくかについて、内閣府から「防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言」が5月25日に発表された。
気候変動に取り組む自分が興味を惹かれた部分と、提言を読んで考えたことを書いてみることにした。

地下構造物を含む都市空間のデジタルツインとシミュレータを構築し、 現在・未来の被災状況を推定・可視化する。
真に深刻な災害の多くは現実的に待避可能な時間内に予測は難しいうえ、予測できたとしても対応が限定的であることから、事前予測よりも、浸水によるインフラ停止など二次災害や三次災害に対する早期の被災想定と対応力の早期構築を主眼としてデジタルツインとシミュレー タを構築し、以下の状況を可視化できるようにする。
我が国は、世界最先端のデジタル・防災技術を世界に先駆けて研究・開発・普及さらには社会実装させること、さらにはその技術を世界中に輸出することにより、世界中の 国々において災害の脅威や被害を軽減させて世界中の国民の生命を守る大いなる貢献ができる国であるということである。
必要な情報項目や取得 時間や更新頻度の目安、データのやり取りの方法等を網羅した「日本版 EEI(Essential Elements of Information)」を策定し、それに基づき情報所有機関との機械同士のデータ連携を促進する。
(※EEI:所要情報のなかで、特に判断の鍵となるものを情報主要素)
近年の情報科学は、時々刻々変わる状況を学理に基づく高度な数値シミュレーションや可視化、仮想現実(virtual reality: VR)等の技術と組み合わせて、教育や啓発に利用することが可能となってきている。
スーパー台風の接近時等においては広域避難の実施判断が必要となるが、この意思決定に資する予測技術開発、避難に要する時間を考慮した広域避難開始のタイミングとその判断基準の検討等を進める必要がある。
気候変動の影響により、降雨量や洪水発生頻度が増加することが見込まれることから、流域全体を俯瞰し、ハード・ソフト一体となった流域治水を加速化することが必要。

上記のような内閣府の方針は、気象庁を始め関係各所に伝達され、これから新しい制度や仕組みが作られるだろう。とは言え、広い国土に1億人を超える国民、1700以上の自治体が一気に変わることは不可能だ。今回の提言をしたメンバーは防災関連分野の著名な専門家だけでなく、安宅和人さんのような民間のスペシャリストも参加している。そして防災・現在だけでなく、防災教育や災害対応ボランティア・避難生活などの災害前後についても多くの提言がなされている。気候変動をはじめ地震や噴火など、災害大国である日本において、新しいテクノロジーを使って最適な制度を設計し、防災と減災を効率的に実施できる国に成長していくことが楽しみだ。自分も、自分の場所でしっかり活動していきたい。


ここからは、自分の分野である気象災害に焦点を絞って、近年の気象災害の傾向やその被害について書いていく。

このまま温室効果ガスが急速に増加し続けると、地球温暖化に伴う気候変動がさらに進行し、日本国内の気象・気候には以下のような変化が予測されている。
・台風の1個あたりの強化
・豪雨の頻度・強度の増加
・海面上昇
・平均気温の上昇

数年前まではこれらの予測も半信半疑で見られていたが、近年の気象災害の激化と世界的な気候変動への注目から、真剣に対応することを産官学全体で求められている。

10年、20年先の世界がこれほどまではっきりと予測できる事例は、天文現象以外には珍しいだろう。研究の限界によりわかっていないこともまだ多いし、これから人類が排出する温室効果ガスの量にも左右されるが、この予測をもとに世界中のありとあらゆるセクターが動いている。人類の叡智を結集して予測された悪しき未来に対して、今できる最善の策を講じることは誠実な行動であると考えている。

具体的に日本ではここ数年、特に気象災害による被害が顕著だ。

風水災による保険金支払総額

日本損害保険協会の統計より筆者作成

2018〜2019年は特に、台風と豪雨により多くの被害が発生している。昨年2020年の7月上旬には、九州地方を中心に線状降水帯などによる集中豪雨が発生し、1055億円ほどの保険金支払いが発生している。

3つの主な気象災害

消防庁が発表する災害情報より筆者作成

今年2021年もそろそろ豪雨と台風の季節が訪れている。台風や豪雨が一つも発生しないことを祈るばかりであるが、気候科学では残念ながら悪い方の予測傾向が出ている。最前線の科学で予測されたものは、最適な制度とテクノロジーをもって対処すべしというのが、最近の自分の考えだ。

気象庁は、激化する気象災害に対して防災情報を素早く丁寧に発表して、できるだけ被害を減らそうと努力している。建物や土地はすぐに防災措置をとることは難しいかもしれないが、人命であればあらかじめ避難をして被害をゼロ人に抑えることは可能だ。災害の予兆が気象庁などから発表された際には、できるだけその情報を真摯に受け止めて、自分と身近な人は早めに避難し、被害を最小限に抑えようという姿勢を持つことが、私たちが気候変動に適応する一つのあり方かもしれない。

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