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「株式会社Gaia Vision」を設立しました

この9月、株式会社Gaia Visionを設立し、私 北祐樹が代表取締役に就任しました。東京大学発、気候科学を専門とする、日本初のベンチャー企業です。「地球と社会を科学で見通し、人の持続可能な幸せを実現する」ために、これから邁進していきます。

気象・海洋の研究を続けていた自分が起業するという決断をした理由は、自分の目標の実現のためには、起業が最適な手段だったからです。自分が小学生の頃から目指し続けてきた目標は、「環境問題を解決すること」です。変な小学生でしたが、なぜそんな事を考えていたのかは別の機会に書きます。

環境問題の中の代表格、気候変動問題を解決するために、Gaia Visionを通して実現させたい目標は以下の4つです。

1. 気候科学の研究成果を、より多くの人に届け、社会をより良くする
2. 気候科学の研究成果の実用性を社会に伝える
3. 気候科学の研究者の活躍の場を広げる
4. 人間社会と地球環境の共存の道を見つけ、社会の真のサステナビリティを追究する

1. 気候科学の研究成果を、より多くの人に届け、社会をより良くする

気候変動が、今や現実のものとなっています。世界各地で気象災害や異常気象が発生し、多くの地域や人々が被害を受けています。日本も例外ではなく、ほぼ毎年起こるようになってしまった豪雨災害や熱暑などにより、多くの被害が発生しています。2019年は、台風15号と台風19号のために水害被害額が2兆円以上発生しました。

しかし、気候変動の進行は気候科学によって想定されたものでした。IPCCを始め、気候研究者は20年以上前から警告を発していました。豪雨の頻発や熱暑、海面上昇など、研究によって予測されていたにも関わらず、実際に社会はその通りに進んでしまいました。

これからの温室効果ガスの排出をどのようにすれば、地球環境はどのようになるのか、科学で予測できることが奇しくも証明されました。河川や海の沿岸地域では、実際に気候予測の結果を用いて、堤防や水門などが整備され始めています。しかし、気候変動は社会のあらゆる所に影響を与えます。金融業界を始め、食品業界やエネルギー業界など、気候変動の影響に敏感な業界を始めとして、喫緊の対応を迫られています。世界は今やグローバルにつながっている。世界のどこかで災害が起これば、サプライチェーンや株価などを通じて影響を受けます。気候変動はこれまで国際社会や政府が対応するものでしたが、今は企業や地域、市民一人一人も気候変動に対応しなければ我が身を守ることはできません。

気候変動の予測から、今できる対策を講じるためには、気候科学を理解し、巨大なビッグデータを扱う必要があります。しかし、難解で扱いの難しい気候科学とそのデータを利用するのは、多くの人や企業には困難です。私自身、修士と博士課程の5年で、ようやくわかってきたというくらいです。多くの人が気候変動にすぐにでも対応するためには、研究と社会をつなぐ仲介者が必要です。Gaia Visionは、気候科学の研究成果をわかりやすく・使いやすく社会に届けるメッセンジャーの役割を担います。

気候予測のデータがより使いやすくなることで、洪水に対する治水整備や農作物への影響評価、養殖漁業の計画支援、保険料の最適な設定や自然災害に強い都市設計など、より良い社会を作るための新しい行動をたくさん実現することができると思います。

2. 気候科学の研究成果の実用性を社会に伝える

1番と似ていますが、これは気候研究のプレゼンスを高めたいという想いから来ています。気候変動に対して注目が集まっている割には、その研究成果があまり活用されていないと感じています。天気予報は毎日ニュースで報道され多くの人が利用していると思いますが、気候研究の成果はまだまだ社会で活用されていません。自分は保険会社にしばらく勤めていましたが、気候変動や自然災害と関わりの深いにも関わらず、研究が十分に行われておらず、対策も不十分だと感じました。

気候関連の研究への投資や人材育成が不足しているのは、研究の価値が十分に理解されていないためだと考えています。最近はようやくメディア等でも注目され始め、企業が大学や研究機関に資金提供して研究を始める事例も増えてきましたが、研究の中枢である大学側に研究者や学生の数が不足しているという問題があります。アジアからの留学生なども最近は増えてきましたが、気候など地球科学の研究をする大学は日本では数が限られており、気候変動に関する研究を急に増やすことが構造上難しい状況にあります。この状況を打開するには、大学内で気候関連分野の学生からの人気を増やすか、企業や行政セクターの中で人材育成をすることが必要だと考えています。研究資金不足という課題も当然ありますが、自分は人材不足のほうが大きな問題だと感じています。

大学で学生からの人気を増やしたり、企業・行政内での人材育成の機会を増やすためには、気候関連の研究を社会で活かしている様子が見えることが必要です。最近では、機械学習などの情報系分野に注目が集まっており、多くの学生が行きたがる人気学科になっているだけでなく、企業からも引き合いが強いと聞きます。プラグマティックな考え方ですが、人が学びたいと思う魅力的な学問分野になって優秀な人材を多く集められれば、学問の進展が加速するのは間違いありません。そのためには人工知能や宇宙分野のように、学問と社会のつながりと実用事例をアピールして、プレゼンスを高めることが必要です。

そのために、ベンチャー企業として研究と社会実装のスピードを高め、気候研究の実用事例を増やすことで、社会からの注目も高まり、より研究が進むことを期待しています。気候変動にはまだまだわからないことがたくさんあります。研究が進んで利用できる成果が増えれば、Gaia Visionが実現できることも増えるので、企業の成長にもつながります。

3. 気候科学の研究者の活躍の場を広げる

これは、「博士・研究者の就職先が少ない」などの一般的な問題につながるものです。最近は少しずつ改善されてきましたが、ごく一部の分野に留まっており、気候・気象・海洋など地球科学の分野では相変わらず、就職先が限定的な状態です(私自身の経験に基づいた見解です)。日本企業に就職できたとしても待遇が特別良いわけでもなく、多くの学部生・修士学生は、見通しの悪い博士課程に進むこともなく就職してしまいます。博士号を取って研究者の道に進んだとしても、厳しい競争環境にさらされ、大学教授や研究機関のポストに就けるとも限らず、柔軟性の低いキャリアと言わざるを得ません。

しかし、今や気候や地球科学の知識は社会により必要とされています。アメリカやヨーロッパでは、気候分野で博士号を取った研究者が手厚い待遇で金融機関や気候ベンチャーに就職し、輝かしいキャリアを築いているという現実が既にあります。これは、気候の専門知識が企業や経済の成長に直結するということの証拠です。一方日本では、まだまだそのような研究者の活躍の場は少なく、学生が地球科学の分野に進むことをためらわせているのでは、と考えています。

Gaia Visionがうまく成長していけば、何十人も気候研究者を良い待遇で雇うことができ、学生が研究の道に進むことにモチベーションを提供できると考えています。

4. 人間社会と地球環境の共存の道を見つけ、社会の真のサステナビリティを追究する

これまで私が投稿してきた内容につながる目標がこちらです。

気候変動が進み、その他の環境問題も進行する中で、地球環境と社会はどこに向かっていくのか、本気で心配しています。サステナビリティやSDGsなどの考えが普及してきたものの、地球環境はあと何年耐えられるのか、実際には誰も答えを持っていないと思います。生物多様性の減少、海洋プラスチックの増加、水資源の枯渇など、私たちと地球環境が直面する課題は山のようにあります。人新世と呼ばれるこの時代、人類社会が地球環境に与える影響はとても大きいことはなんとなくわかっているものの、実態に対して科学的・定量的に理解できている範囲は氷山の一角でしかありません。

VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)な予測不可能時代とも言われる中で、科学ができることはもっとたくさんあると信じています。地球環境の研究はまだ道半ばですが、一方で人類社会についての科学的理解も不十分です。企業や家庭の温室効果ガス排出量や水使用量、生物多様性への負荷、金属資源の使用量などを始め、その地域や国、社会制度は地球環境にどれほど影響を与えるのか?SDGsのトレンドが強くなり、企業は各指標を公開していますが、実際にそれらが本当に地球環境にとって持続可能なものなのか、ほとんど検証はされていません。最近は証券会社や銀行などの金融機関も、SDGsに貢献している企業へのESG投資を加速させていたり、グリーンボンドやサステナビリティボンドなどの債券を発行したりなどの動きが目立ってきましたが、本当にそれは持続可能なのか?科学的な検証がされないまま、SDGsビジネスやESG投資などが闇雲に広がることは、とても危険だと思っています。

一人ひとりや企業、地方自治体などのデータを集め、気候など地球環境のデータと掛け合わせることで、サステナビリティという言葉の裏に隠された真実を見抜くことで、誰ひとり取り残さない、地球環境と人類社会の調和した世界を見つけることができると、私は信じています。それが、Gaia Visionのビジョンです。


これまで気候変動問題解決のために、大学・NGOで活動し、博士号を取るまで研究し、企業に勤めながら答えを探してきましたが、ようやくその方向が定まったと思います。起業と言うからには、顧客の課題を解決することが仕事です。研究の世界で行われている専門知識・技能や東京大学の最先端の研究成果を用いて、顧客の持続可能なビジネスや経営を支援します。
改めて、Gaia Visionのミッションは、「地球と社会を科学で見通し、人の持続可能な幸せを実現する」ことです。
これから、どうぞよろしくお願い致します。


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