23.山地剥(さんちはく)~戦略的撤退②

六十四卦の二十三番目、山地剥の爻辞です。
卦辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/nee722f83a06f

23山地剥

主爻

初爻は、上九です。陰が陽を剥ぎ落とす時にあって、正しい道を最後まで守り通す爻であり、後に乱窮まって再び治を生ずるところの原動力となるものです。

初六

牀(しょう)を剥するに足を以てす。貞を蔑(ほろぼ)す。凶。
象に曰く、牀を剥するに足を以てすとは、以て下を滅ぼすなり。

寝台の足の下部を削り取る。正しいものを下から滅ぼそうとしている。凶。

外卦の艮は寝台の上に人が横たわって寝ている姿、内卦の坤はその土台を表します。上九の君子を滅ぼすにあたって、初六はまず寝台の足場から徐々に腐食させようとしているのです。

六二

牀を剥するに辨(べん)を以てす。貞を蔑ぼす。凶。
象に曰く、牀を剥するに辨を以てすとは、未だ興(よ)有らざるなり。

寝台の足の上部を削り取る。正しいものを滅ぼそうとし、それを正そうとする朋友はいない。凶。

腐食するところが徐々に広がり、寝台の足の上部まで達しています。本来は従順中正なる位置でありますが、応爻も比爻もなく、指導し導いてくれる仲間に乏しいので、やむを得ず他の陰爻と同じ行動をとっているのです。未だ興有らざるなりとは、応ずる陽爻がある六三に対して言う言葉です。

六三

之を剥す。咎无し。
象に曰く、之を剥す、咎无しとは、上下を失へばなり。

寝台の表面を削り取る。しかし悪友との交際を絶ち、咎はない。

寝台の腐食が、いよいよ本体まで及んでいます。しかし六三は上九の君子と応じており、その徳に感化されて目覚めるのです。そして腐食を進行せんとする上下の陰爻との交際を絶ち、独り正しい道へと向きを変えるのです。

六四

牀(しょう)を剥するに膚(はだえ)を以てす。凶。
象に曰く、牀を剥するに膚を以てすとは、切(せつ)に災(わざわい)に近きなり。

寝台に寝そべる人の皮膚を削り取る。もはや災いは目の前にある。凶。

寝台の腐食は、とうとう上に寝そべる人の皮膚にまで及びます。絶体絶命の状況にあり、凶としか判断のしようがありません。

六五

魚(うお)を貫く。宮人(きゅうじん)を以て寵(ちょう)せらる。利しからざる无し。
象に曰く、宮人を以て寵せらるとは、終(つい)に尤(とが)无きなり。

魚を貫き並べるが如く、宮中の女官を並べて君子の寵愛を受ける。ようやく咎なくして利を得られよう。

魚は陰の象であり、初六から六五までの陰爻を魚の群れに喩えます。六五は上九と比しており、その徳に感化されて中正なる心を取り戻し、下にある陰爻を目指しのように束ねて引率するのです。宮人は女官、これも陰の象であり、上九の君子に対してひたすら従順に尽くすべきことを説くのです。

上九

碩果(せきか)食はれず。君子は輿(くるま)を得、小人は盧(ろ)を剥す。
象に曰く、君子は輿を得とは、民の載(の)する所なり。小人は盧を剥すとは、終(つい)に用ふ可からざるなり。

大きな果物が人に食われることなく爛熟し残る。君子は万民の支持を得て車に乗ることを得、小人はその君子を用いることなくその住む家を削り取るであろう。

乱れた世にあって上九は最後の希望であり、大木に一つだけ残った果実のようなものです。これもまた、やがては地面に落ちるのですが、そこから種子が芽を出して再び陽の時代になるのです。内卦の坤は大地、大地は万物を載せるものであり、車の象です。小人の盧とは、小人の住む庵であり、この卦全体が一戸の家の形です。上九は屋根の部分であり、小人は屋根をも剥ぎ取ってしまい、最後は我が身を滅ぼすのです。

まとめ

初六から六四までの各陰爻は、寝台そしてその上に寝そべる人が徐々に剥落されていく様子を通じて、陰の勢力が徐々に進行するさまを表します。ただ六三のみ、上九と比しているため、陽の徳に感化されて目覚めます。

六五も上九の近くにおりますので、その徳に感化されて、他の陰爻に対して目覚めるよう促します。

上九は乱世における最後の希望です。これが腐りきって地面に落ちたとしても、やがて芽吹いて地雷復の卦へと変ずるのです。

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