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「観せずに楽しむ表現運動」

1はじめに

 表現運動の授業に悩まれている方はとても多いのではないだろうか。私もその1人で、表現運動には苦手意識があり自信をもって教えることができずにいた。
 表現運動では、発表会をゴールとして設定したり、友達と演技を見合ったりする活動をよく行う。実際私も同じように行うことが多かった。そのような授業は、一見盛り上がりを見せ、充実した学びがあったように感じる。しかし児童の中には「恥ずかしい」「自信がない」という思いをしていて、十分に表現運動を楽しめていない児童もいる。
 そんな時、以下のnoteに出会い考えを一新させられた。

 アカデミック先生のnoteでは、発表することや友達と見合う活動をするべきでないとしている。楽しみながら身体表現をする経験をせずに、他者に見られるということは、大きな不安を抱く恐れがある。その為、小学校段階では、見られている意識がない中での身体表現を楽しむことが重要である。
 この記事をもとに初めて「見せない表現運動」を実践した。

2リズムダンスの特性

リズムダンスというのは、表現運動の一部であり、中学年で取り扱う。(下図参照)

表1
「体育まるわかりハンドブック(文部科学省)」より引用

 リズムダンスの楽しさは、曲のリズムに乗って全身で弾んで踊り、自由に身体表現することである。また、友達と関わり合いながら身体表現することも楽しさの一つである。その一方で、「恥ずかしい」や「どうやって動けばよいかわからない」等、心理的不安を感じやすい運動でもある。
 そのことから、今回の実践では遊び感覚で運動を行えるように工夫し、児童の心理的なハードルを下げることで気軽に身体表現の楽しさに触れられるようにした。同時にその中に、ダンスの基本動作を盛り込んだ。その際、正確さは追求せず、あくまで児童が身体表現するための材料とできるように基本動作を教えた。そして、簡単な動作を組み合わせてダンスを構成できるようにした。

3単元指導計画

表2

 4年生を対象にして行った。単元を通して「①心と体をほぐす時間、②表現を高める時間、③表現を楽しむ時間」に横断的に分けて行った。単元を通して友達と運動を見合う時間は設けず、あくまで身体表現を楽しむことに重点をおいた。その為、運動する時間をできるだけ多く確保し、1時間の中で身体表現できる回数も多くした。また、誰でもできる簡単な動作を組み合わせて踊ることで、全員が楽しめるようにした。
 児童の中には、表現することに恥ずかしさを感じる子もいた。その為導入では、だるまさんが転んだをアレンジしたり、じゃんけんを取り入れたりする等して、できるだけ遊び感覚で行い、児童の心理的なハードルを下げながら行えるように工夫した。

4主に行った運動

①ジャンケン〇〇

・ペアでジャンケン
・先生は指示を出す。
(例)
・勝った人は台風になる、負けた人は葉っぱのように吹っ飛ぶ。
・勝った人はぞうきんをしぼる、負けた人はしぼられる。
・勝った人は料理をする、負けた人は料理される。
・勝った人は動物を言う、負けた人はその動物になる。

②だるまさんが〇〇

・動物や乗り物、食べ物等のテーマを決めて、だるまさんが転んだをする。
・鬼はテーマに合わせて「だるまさんが〇〇!」と言って振り返る。
※〇〇にはテーマに合ったものを入れる。
・みんなは〇〇の真似をする。
(例)
・動物:ライオン、ゴリラ、キリン、ゾウ
・食べ物:ラーメン、ポップコーン、チャーハン
・乗り物:バイク、船、クレーン車

③ダンシングヒーロー

 ヒーローを一人(単元途中から2~3人)決め、ステージの上に立たせる。そして、みんなでヒーローの真似っこをする。まずは教師がヒーローになり、ダンスの基本動作をやってみせた。真似っこ遊びを通して、リズムダンスの基本動作を身に付けられるようにした。また、ここで基本動作に学級オリジナルの名前をつけることで、この後の活動がスムーズになった。
 これを繰り返していくうちに、「ステージの上に立ちたい!」という児童が出てきたので、児童にもヒーロー役をやらせた。またダンスの基本動作は以下を参考にした。

図1
https://www.educ.juen.ac.jp/topics/files/elfinder/2017-25.pdfより引用

5授業の様子

①1時間目

 1時間目は、「恥ずかしくて嫌だ。」「どうやって体を動かせばいいかわからない。」が続出してしまった。正直、大失敗だった。
 まず、簡単なリズムダンスで体と心をほぐした。次のじゃんけん〇〇とダルマさんが〇〇ではとても盛り上がり、順調に進んだ。
 最後の表現を楽しむ時間で「リズムに合わせて自由に体を動かしてみよう!」と言って、音楽を流した。動画で自由に体を動かす様子を見せたり、基本的な表現を教えたりしていたことから、児童は思い思いに音楽に合わせて体を動かすかと思いきや・・・。ほとんどの児童がその場で固まってしまった。体を動かしていたのは一部のノリのいい子達だけであった・・・。
 その時間の子供達の振り返りには、「恥ずかしくてできない。」「どうやって体をうごかしていいかわからなかった。」「一人じゃなくて友達とやりたい。」などの記述が目立った。

②2時間目

 授業の最初、児童に「前回の授業で困ったことある?」と質問した。そうしたところ、前述の振り返りのような内容がでた。特に、「どうやって体を動かせばよいかわからない。」と「友達と一緒にやりたい!」という声が多かった。
 そこで、「ダンシングヒーロー」で教師がリズムダンスの基本動作を5種類程度行った。そして、表現を楽しむ時間の前にそれをどの順番で行うかを個人の体育ノートに記入させた。そして以下の構成でダンスを考えさせた。

①基本動作
②自由に踊る
③友達と踊る

 最初は、体育ノートに書いた順番で基本動作を行わせた。そうすることで「どうやって体を動かせばよいかわからない。」という児童はいなくなった。慣れてきた所で、自由に体を動かす部分を設けた。そして徐々にその割合を増やしていった。そうしたところ、導入で行ったリズムダンスの動きを取り入れたり、動画配信サービスで見た動きを真似したり、好きなキャラクターの動きをしたりする児童もいた。徐々に自由に踊る時間を増やしていくことで、身体表現の心理的ハードルを下げることができた。
 また、この時間から「友達とダンス」を行った。まずは教師が図1の中から、いくつか基本動作を示した。その際、ペアを固定せずに色々な友達と関わり合うことを意識させた。先ほどと同様に、その中から自分のやってみたい動きをノートに書かせた。そして、曲の一部分で友達と体を動かす部分を設定した。
 児童の困り感をもとに授業を作っていったことが良かった。この時間は、児童が目一杯身体表現を楽しんでいた。

③3~4時間目

 3時間目になると、基本動作だけでなく、多様な身体表現をする児童が増えてきた。ダンシングヒーローでも児童にヒーローをやらせてみた。様々なポージングやダンスをしてくれる児童がいてとても盛り上がった。さらにこの時間には、ヒーローを2人にして、ペアの動きも行った。
 この時間は、児童がより一層身体表現を楽しめるようにする為に以下の視点を与えた。

①空間のくずし(踊る方向や場を変化させる)
②体のくずし(体全体をつかう)
③リズムのくずし(早く、ゆっくり、止まる等リズムを変える)
④仲間のくずし(離れる、くっつく、色々な友達と踊る)
https://www.educ.juen.ac.jp/topics/files/elfinder/2017-25.pdfより

 この視点を与えたことで「表現を楽しむ時間」では、止まる動きを入れたり、その場から移動して意図的に関わる友達を変えたりする児童が現れた。
 4時間目はサンバの曲に合わせて行った。ダンシングヒーローでサンバの基本動作を取り扱い、サンバのリズムや動きを教えた。あとは、ロックの時と同様に、①基本動作を組み合わせる時間、②自由な時間、③友達と踊る時間で構成を考え、踊った。サンバでは、①~③の時間配分も自分で考えさせた。

④5時間目

 5時間目は、今まで学習したことをもとにそれぞれの児童が思い思いにダンスを楽しんだ。
 まず、踊る前に取り入れたい動きを体育ノートに書く時間を設けた。また、「①基本動作を組み合わせる時間、②自由な時間、③友達と踊る時間」の時間配分の割合は各自に任せた。
 それをもとにロックのダンスとサンバのダンスを行った。最後は、4曲(ロック2曲、サンバ2曲)の中から好きな曲を選び、それぞれの場所に分かれてダンスをした。完全に即興だったが、みんな楽しそうに音楽に合わせて踊っていた。

6まとめ

 今回の実践では、あえて友達と演技を見合う時間を設定しなかった。当然、誰かに発表するといったゴール設定もしていない。そうしたことで、児童が自分の表現と向き合う時間を確保することができた。その結果、児童は音楽に合わせて豊かに身体表現することができるようになった。1時間目と5時間目を比較するとその差は一目瞭然であった。
 初めて「見せない表現運動」を行ったが、ベースは変わらない。私の1時間目のようにいきなり「自由に動いて!」と言われてもできない児童がほとんどである。だからこそ、自由な身体表現ができることを目指して一つ一つ丁寧に指導をしていかなければならないと感じた。この部分は、体育に限らず度の授業でも言えることだと思う。

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