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傾聴ギャルと、冷めた焼きゲソ(問いギャルシリーズ)

こころ「いやホントさ、聞いてないのよ。アドバイスとか」
エリ「は~」
こころ「結局アドバイスとかいって、過去の栄光語って、ほめてほしいんでしょ。あーいう人たちって」

もうずいぶんハイボールを飲んで、酔いが回っていた。むしろそうでないと、こころは愚痴を人に言えない性格だった。今日はエリよりもペースが早い。薄暗い和風の居酒屋で二人、姦しい夜が今日も更けていく。

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柄村こころ:軽度の社畜。勤勉家。趣味はヒトカラでシャウト。

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珠華寺エリ:意外にフリーランス。意外に読書家。ナチュラルにギャル。

・・・

こころはグレーのスーツ姿で、髪はもうボサボサだった。エリは気合入れたデートか、ってくらい決まっている私服。ミディアムロングの金髪は今日もサラサラ。まぁ、いつものことだ。

こころ「大体さぁ、クライアントに提案する前にだってさぁ、ヒアリングとかするでしょ。そういうの一切なしに、頼んでもないのに。押し売りじゃん」
エリ「ごめん、どーいうこと?」
こころ「こっちの事情も聞かずにアドバイスとかされても、響かないっつうの...」
エリ「ま~そうだねー。ごくろーさん」

すっかり冷めた焼きゲソを力なく食べるこころ。

こころ「は~……辞めたい」
エリ「おー出たねー、出ました!」
こころ「うっさい」
エリ「こころクンね、人はそーやって成長していくのだよ、ガハハ~」
こころ「おい、あんたも”アドバイス”かよ」
エリ「ま~そう腐るなって。あ、すませーん」

店員が席の前で止まり、ポケットからメモする機械を取り出した。

エリ「えーとハイボールを...」こころに目を向ける。
こころ「1つと、あと私、獺祭」


こころ「アンタは悩みとか無いの? 無いか」
エリ「ちょっと~。私にも悩みくらいあるわっ」
こころ「例えば?」
エリ「そうだなぁ、どうして牛乳は賞味期限までに飲み切れないのか、とか~」
こころ「はぁ、聞いて損した」
エリ「冗談だって。まぁ最近は、ほら、前に言った例の」
こころ「あぁ、ストーカー……」

こころ「ごめん」
エリ「いやいいのよ。まぁ、悩みはみんなあるよね」
こころ「みんな、かぁ……アンタはすごいね。ちっともそんな風に見えない」
エリ「ここっちの職場の人もそう思ってるよ。ここっちのこと。いつも真面目で前向きだなぁって」
こころ「まぁ、そうかもね……。てか、ここっちって誰だよ」
エリ「こころちゃんのこと」
こころ「いやそうじゃなくて、まぁ、いいけど」

「ハイボールと、獺祭っす」

少し沈黙。自分たちが静かになると、周りの騒がしさがわかる。

エリ「まぁ……辞めたいなら、辞めるのもアリだと思うけどね」
こころは深いため息。
エリ「会社に尊敬できる人がいるって、前言ってなかった?」
こころ「ん……まぁ……」
エリ「そっか」あえて深くは問わない。

こころはメニューのページをめくっては戻してを繰り返している。たぶん見てない。

こころ「かっこいい先輩がいてね。女性なんだけど。仕事は早いし、会議では、批判を恐れないで自分の意見をしっかり伝える。無口で不愛想で、苦手な人も多いんだけど。でもこないだ、私がプレゼンうまくいかなくてへこんでたとき、話しかけてくれてね……」

こころは今日イチの饒舌っぷりを見せる。エリは静かに笑って聞いている。

こころ「あとあと、これ厳しいだろ~って納期の仕事が来てね。さすがにその先輩もイラっとしたように見えたけど、すぐさまモードに入ってさ。文句ひとつ言わずにやりとげててさ~」
エリ「こころにもそういうとこ、あるよ」
こころ「えっ、そうかなぁ……」
エリ「そうだよ」

気づけば店内も静かになってきた。
ひとしきり話し終え、最後の冷たい焼きゲソを口にほおりこむこころ。

こころ「今日はおごるよ」
エリ「マジ!? ごちでーす」
こころ「ちょっとは払う雰囲気とか見せないの?」
エリ「うん」
こころ「あっそ」
エリ「ありがとー」
こころ「……わたしこそ、その」
エリ「ん、なんて?」
こころ「ありがとってこと! ほら早くレジ行くよ」

共感には不思議な大きな力がある。台本はないし、やり方に正解はない。ただ耳を傾け、受け入れ、批判を差しはさまず、気持ちに寄り添い、不思議な癒しの力のある「あなただけではない」というメッセージを伝えればよいのだ。

ブレネーブラウン.本当の勇気は「弱さ」を認めること(Kindleの位置No.1024-1026).サンマーク出版.Kindle版.

◆問いギャルシリーズ
世の中ってホント理不尽! それでも、たくましく生きていく乙女たちの日常と、ひとくちヒント。

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◆文・イラスト・デザイン:ノーマル浮枝

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