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クァシンとアイの冒険

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設定をフリー素材にしました。 キャラも世界観も自由に使ってください。 どんな形式でも大歓迎です。 小説でも詩でも音楽でも絵でも良いです。 #ワールドザワールド
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#不思議

24 短歌集「女神たちはたらく」

__新月、曲がったノートを閉じる家庭教師の解読不能な提案。  チョークを置く音は乾いていてまるで一つの木管楽器が間違って鳴ったみたいな嬉しさがある。アイはノートに答えを書いた。三角の女神に連立方程式を教わっているのである。  三角の女神はアイの隣に腰を下ろし、机に肘をついて自分が書いたばかりの板書を眺め、「ふーん」とバネが緩んだびっくり箱みたいに首を揺らしながら後ろに大きくもたれた。下唇を突きだしてアイのノートを見る。 「よくできてるじゃん」 「数学だけは」とアイは鼻でシュ

23 蚊に刺されて

1  目を覚ますなり身体をギチギチと痛めつけ鉛のように重くする高熱の症状に、気を失うように眠ったり、また反転して起きたりと繰り返す白髪の少年は今再び瞼をもちあげ、曇った瞳で天井を眺めていた。その風景も周囲の人らの彼を慮る声も、病人には届いていない様子である。熱は抵抗を作る。ここでもまた高熱のクァシンと周囲の世界とで、音も光も意思も抵抗によってすんなり行き交うことはなかった。 「これは、ふくれ病って言ってね、このままじゃあクァシンちゃん、三日後に破裂しちゃうよ。それで中から大

22 天女の服

 天の神聖に対する無垢なる人間の最初の罪深き叛逆、 やがて空想なる地上世界を、緋く泡立つまで、底から 掻き雑ぜることになる、宿命の、筋書きの冒頭 ああ、何と悲しき存在か。その身をもって、人間の悲哀を 孤独と、無秩序な運命を、神と隔たる無限の壁を、 かつては永遠の果実とされた空気を、苦いものにしてまで、 甘いものを求めて生きる現存在の悲哀の物語を、 世俗の詩聖に歌えなかった歌の姿を、 彼は一人その身に背負って、足を挫きながら演じるのである イロニー的存在たる彼は、夕陽を望みつつ

21 アイの長い一日

その日のアイにはすることがなかったから、いつも通り規則正しく朝早くに起きたけれども何をするでもなく寝転んだまま目を開けて、天井を見ているとウサギがお腹にポンっと勢いよく乗ってきたことがきっかけで、そう、何かの弾みで心の中の世界にふっと風が吹くことはよくあるけれど、アイは今まで妄想なんてそうそうする性格ではなかったのに、この日ばかりは妄想というものが頭の中いっぱいに、それもぼんやりとではなく、明確に輪郭を持って立ち現れてきたのだが、その妄想というのは、あの路地に関することで、こ

19 バナナの道

 クァシンはいろんな種類の花を紙に描き写して歩いていました。  町には一川と呼ばれる川が通っていますが、その一川に沿って南下しているのです。黄色い小さな花や、赤い茎の太い花など、探してみるといくつもありました。  昼を過ぎた頃でしょうか、風車のついた赤い家を見つけました。  川辺にポツンとある家です。  クァシンには気になって訪ねてみることにしました。  中にいたのは眼鏡をかけ、白衣をまとったた恐竜でした。三本、ツノが生えています。彼は「トリケラ」だと名乗りました。クァシ

18 人産みの母

 池のように澄んだ青空の下に、巨大なライオンがいます。  古墳の前に座っている巨大なライオンです。  アイもいます。ライオンに会いにやってきたのです。クァシンも一緒です。  昨日二人で、とある事件を解決したのですが、その時一人の女性が言った「生まれてこなければよかった」という言葉がアイの頭に残っていて、そのことについて聞きにきたのです。ライオンは叡智で有名ですから。 「生まれてくるかどうかは、決められないでしょ」  とアイはライオンの鼻の上に座って空を見上げながら言いまし