メール送信のIPレピュテーションを計測するには?
はじめに
こんにちは、株式会社WOW WORLD(旧 エイジア)の藤田です。前回は「メール送信のIPレピュテーションを向上させるには?」と題して、メール送信のIPレピュテーションの決まり方や向上させる方法について書きました。
今回は、メール送信のIPレピュテーションを計測する方法について、解説します。
インターネットにはメール送信のIPレピュテーションを公開しているサイト・サービスがいくつかあります。それぞれの会社に公開している目的・思惑はあるのですが、利用して損することもありません。使用しましょう。
以前の記事「メール送信のIPレピュテーションとは何か」で説明したとおり、メール送信のIPレピュテーションにTOEICの点数のような統一的な指標・数値は存在しません。このため、メール送信のIPレピュテーションを計測する際もいくつかの指標を組み合わせながら、推し量ります。
①Cisco Talos
1つめのIPレピュテーション調査先は Cisco 社の Talos (旧 SenderBase)です。わたしはここから調べ始めることが多いです。
この世界地図にピンが立っているのは、Talosが観測したメール送信が多いIPアドレスです。「水色-正当なメール」「オレンジ-スパム」「黄緑-マルウェア」という色分けです。このCisco Talos のメール送信IPレピュテーションは、Cisco社の提供するメールサービス(Cisco Secure Email)のトラフィックが元になっているようです(と、このあたりを見ながら推測)。
Talosの便利な点は、ネットワークを範囲で調べられることです。例えば、某大手ECサイトから私にさきほど来たメールは「133.237.26.73」というIPアドレスからでした。このIPを調べるとこうなります。
Cisco Talos ではメール送信のIPレピュテーションが Good🟢- Neutral🟡 - Poor🔴 と3段階で表されます(右上の Email Reputation)。「133.237.26.73」は Good🟢 です。
その下を見ると、133.237.26.0~133.237.26.255 とこの付近のIPアドレスのメール送信IPレピュテーションが一覧で表示されます。このIPアドレスの範囲は、某大手ECサイトのメール送信だけに使用されていることが見て取れます。256個のIPアドレス範囲まるごと、一社のメール送信で使用するのは大規模で珍しいです。右端の⚫の色が、Talosの判断するメール送信のIPレピュテーションです。某大手ECサイトがメール送信で使用しているIPレピュテーションはすべて「Good🟢」と問題ない表示です。
比較として、スパムを送っているネットワークでは、こんなふうに表示されます。リストの右端が「Poor🔴」で真っ赤です。(適当にサンプルを拾ったところブルガリア🇧🇬のIPアドレスでした。)
実は、Talos 上で Good🟢 と表示されるIPアドレスから正当なメールを送ってもしばしば「IPアドレスの送信レピュテーションに起因してメールが届かない、または、迷惑メールに割り振られる」ということはあります。いま私の手元に来た Microsoft 365 が迷惑メールと判断したあるメールマガジンについて、その送信IPの Talos のIPレピュテーションは下のように Good🟢 でした。
Good🟢でもまずいことがあるなら、Neutral🟡 はもっとまずいのか?というとそうでもありません。Neutral🟡なIPアドレスから送信したメールも正しく届くことのほうがずっと多いです。これは Talos できちんと説明があります。Cisco Talos > Reasons for Neutral Email Reputation
(適当訳:わずかな問題があるかTalos側で良いかどうか判定するに足るメールの量がないときNeutral🟡になります。おおよそNeutral🟡はそのIPアドレスに関してリスクがないことを示すので良い兆候です。)
では、この Talos のIPレピュテーションは何に使うことができる指標なのか?という疑問が湧きます。(日本国内あての配信で使用し ※)IPレピュテーションを使用するタイミング・目的は「①日付をあけて同じIPアドレスを調べたとき、上昇傾向・下降傾向にあるかどうか」「②Poor🔴でないことを確認する → もしPoor🔴なら確実になにか問題をはらんでいる」「③これから説明する他の指標と組み合わせて考える」です。
※海外あての配信、特に中国・東南アジアあての場合は、別途の観測を行う
前回の記事「メール送信のIPレピュテーションとは何か」で、IPレピュテーションは最初低いのでウォームアップさせると書きました。このウォームアップの状況を観測する方法として、あるIPアドレスをメール送信に使用し始めてから、毎日 Talos で調べたとき
----🟡--🟡-🟡🟡🟡🟡🟢🟡🟡🟡🟢🟡🟡🟡🟢🟡🟢🟢🟢
と最初はIPアドレスで調べても表示されない状態(-)から🟡が増えて、やがて🟢の割合が増えることが見て取ることができれば、【ウォームアップが徐々に進んでいる】と判断できます。
②SenderScore
2つめのIPレピュテーション調査先はValidity社(旧ReturnPath社、🇺🇸)のSenderScoreです。
こちらはIPアドレス1つずつ調べる必要があり、またその際に連絡先を入力する必要があります。
上のTalosで例とした「133.237.26.73(某大手ECサイトの送信IP)」と「64.235.61.34(今度はアメリカ🇺🇸のSpam送信IP)」は SenderScore ではこうなりました。SenderScore は100点満点中何点という形で表示します。
SenderScore の特徴は、メール送信のIPレピュテーションを判定した理由を「Reputation Measures」として項目を分け記載している点です。
前回記事「メール送信のIPレピュテーションとは何か」で書いたメール送信のIPレピュテーションを決める4つの指標と SenderScore の判定理由の項目は対応関係にあります。
①受信者に好まれる配信をすることが「Complaints」に、②バウンスレート(到着未達率)を低くすることが「Unknown Users」に、③認証を設定すること(必要な分)が「Infrastructure」に、④ブラックリストへの(誤)掲載へのチェックが「Blacklists」に、と対応します。
上のキャプチャで「100点満点中6点」となっている 64.235.61.34(アメリカのSpam送信IP)は、SenderScore ではバウンスレート(到着未達率)が高すぎることで異常と判定しています。
メール送信での問題があり、そのIPアドレスのメール送信レピュテーションを SenderScore で調査したとき、問題のありそうな項目(=Lowではない)が分かれば問題解決の手掛かりになります。
ただし、SenderScore の指標は「日本国内あての配信では、配信が相当のボリュームでコンスタントにないと、数値があまり安定しない」という経験則があります。このため SenderScore も「日付をあけて同じIPアドレスを調べたとき、上昇傾向・下降傾向にあるかどうか」という捉え方をお勧めします。SenderScore では、右上にこんな推移のグラフもあるので活用します(これは安定して上昇傾向にある例)。
③Microsoft SNDS
3つめのIPレピュテーション調査先はMicrosoft社の "Outlook.com Smart Network Data Services" 略して SNDS です。
SNDSは、outlook.com(※)が、IPアドレス所有者に対して、メール送信のレピュテーションのデータを提供してくれるサイトです。サイトの説明にもこのようにあります。
The Outlook.com Smart Network Data Services (SNDS) gives you the data you need to understand and improve your reputation at Outlook.com.
(適当訳:Outlook.comでのレピュテーションを理解し向上させるためのデータを提供します)
※ outlook.com は、@outlook.com の他にも @hotmail.com, @msn.co.jp, @live.jp など各hotmail・msn・liveドメインでMicrosoft社が提供する個人向けメールサービス全体を含みます
このSNDSにMicrosoftアカウントでログインすると「View Data」というページがあります。このページは「あるIPアドレスから」「日別に」「何通送って」「迷惑メールの率がどの程度で」「Complaint Rate=迷惑メールボタンを押された率がどの程度か」を提供してくれます。
多くの場合、送る側からは、宛先に届いたメールが受信トレイに届いたか、迷惑メールになってしまったか知るすべがありません。しかし outlook.com あてであればSNDSを使うと送ったメールがどれだけ迷惑メールとなったかその率が送った側からもわかります。IPアドレス×日別ごとに、緑の🟩が迷惑メールと判定された率10%未満、黄色の🟨が迷惑メールと判定された率10%~90%、赤の🟥が迷惑メールと判定された率90%以上です。
ここまでで挙げた Talos や SenderScore は指標自体よりも指標の変動が大事と書きましたが、SNDSは違います。SNDSは「緑の🟩」が正常=望ましい状態です。「黄色の🟨」「赤の🟥」は何か問題があると考えます。
また、迷惑メールの率がどの程度かは outlook.com の各メール送信のIPアドレスのレピュテーションを反映した指標です、outlook.com はインターネット全体のメール送信先の数%を占めているので、インターネット全般に対してのIPアドレスのレピュテーションを推し量る手掛かりになります。
SNDSはこのように明確な指標が提供されるサイトであり、あるIPアドレスに関する数値を見るには、自分がそのIPアドレスの所有者であることを示す登録が必要です。SNDSに「Request Access」というページがあります。ここから自分がそのIPアドレスの所有者であることを示します。
認証の仕組みはこのページに説明があります。「①1つのIPアドレスを逆引きしたドメイン名から生成される管理者メールアドレスにメールを送って認証」「②1つまたは範囲のIPアドレスをWHOISで調べたネットワークの管理者メールアドレスにメールを送って認証」どちらかです。
最後に
メールが届くかどうかを大きく左右する「メール送信のIPレピュテーション」を計測する方法には(ここに書けなかったことも含め)様々な手段があります。
メール送信について「こんな面倒なことは自分のところでやるのはしんどい(他にもいろいろすることがあるんだ)」というお悩みを持つ方、弊社のWEBCASというサービスへ、お気軽にお声がけください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?