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メール送信のIPレピュテーションを向上させるには?

こんにちは、株式会社WOW WORLD(旧 エイジア)の藤田です。前回は「メール送信のIPレピュテーションとは何か」と題して、メール送信のIPレピュテーションやその概念について書きました。

今回は、メール送信のIPレピュテーション、すなわち「メールを受信する側の送信元IPアドレスに関する評価が何で決まるか」について解説します。

これは「メール送信のIPレピュテーションを向上させるには何をすればよいか」という内容でもあります。(迷惑メールやフィッシングメールの送信者を除き)メールが思うように届かない、という方の参考になれば幸いです。

メール送信のIPレピュテーションを決める4つの指標

メール送信のIPレピュテーションは受信する側の評価する仕組みによって様々あるのですが、まず押さえておきたい4項目があります。①受信者に好まれる配信をすること、②バウンスレート(到着未達率)を低くすること、③認証を設定すること(必要な分)、④ブラックリストへの(誤)掲載へのチェック、です。

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4項目は大事な順に・よく問題になりやすい順に並べました。この4項目を順に説明します。

メールを送る対象はその送信者が正しい手段で取得したもの(例:名刺交換した、会員登録された)で、広告目的のメールでは配信の許諾(パーミッション)を取得済みであることが前提です(この2つを守っていない場合、迷惑メールであり送信してはいけないものです)。

①受信者に好まれる配信をする

「ちゃんと対応しているのにメールが届かないんです」といった問い合わせに対応しているとき、この要素でメール送信のIPレピュテーションが下がり相手のメールサーバーが受け取ってくれないということは、案外多いです。

「好まれる」という形容ではなく「必要な」とか「嫌われない」でもいいかもしれません。

受信するシステム(Gmail、Yahoo!メール、outlook.com、iCloud などがメールを受け取るとき)は、受信者に届けたメールが「1.迷惑メール報告されないか」「2.すぐに削除されないか」「3.クリックされるか」といった、受信者側の反応を見ています。

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送信したメールが受信者にとって必要なものか・有益なものか、という指標は重要です。しかし、ここは対応も難しいです。「ちゃんと対応しているのにメールが届かないんです」という問い合わせのサポートをしていてこの点に行き着いたとき、「その配信、受信者側にとって好まれていないですよ」と指摘をするのは結構空気を読まない発言です(けれど行う必要がある)。指摘をされた側も、なにか必要があって送ろうとしたので「そんな指摘されてもこちらの事情があるし……」と反応されるでしょう。

どのような組織であっても「必要なメールを送るようにする。不必要にメールを送らない」というルールを浸透させるには、相応の労力と合理的な判断、時間がかかります。ですが、実施したときに得るものも大きく、長期的にはIPレピュテーション向上からメールが円滑に届くようになります。怠れば、IPレピュテーション低下からメールが届きづらくなります。

②バウンスレート(到着未達率)は低く

バウンスレート(到着未達率)は、ある期間中に送ったメールに対して、どれだけ宛先に届かずに戻ってきたかの割合です。例えば、あるメールサーバーが24時間で10,000通メールを送って、届かずに戻ってきたメールが150通なら、バウンスレートは1.5%です(=150÷10000)

バウンスレートが高いということは、「だいぶ以前に取得したメールアドレスへ送信を行った」「メールアドレスの取得手段になにか問題がある(例:手書きされたアドレスをOCRだけで入力した)」「リストクリーニング(※)されていない」といった、その送信に何らかの問題がある兆候です。

※リストクリーニング=送信してメールが戻ってきたとき、そのメールアドレスに印をつけて次回から送らず配信停止にすること。割といろんな配信するシステムで一般的な機能

受信するシステムはバウンスレートが高いメールを送ってきた送信IPのレピュテーションを下げる傾向があります。バウンスレートを低くすることは大事です。ただし、経験的には、この「②バウンスレート」より「①受信者に好まれる配信」の方が重要です。

リストクリーニングでは、1回戻ってきただけで次回から配信停止にするのは避けることをお勧めします。複数回で止めた方がいいです。理由は、受信するシステムに何か障害が生じてメールが戻ってきたとき(※)それをもって配信停止すると、届くはず・送る必要のあるメールアドレスにメールを送らないことを招くからです。

※受信するシステムに何か障害が生じたとき、どのようなエラーが返ってくるか分からず、戻ってきたメールに記載された理由もあてにならない。おかしいシステムからの反応を期待してはいけない、ということ。

③認証を設定する

「メール 届かない」「メール IPレピュテーション」で検索した方は、送信ドメイン認証の必要性はすでにご存知だと思います。

インターネットのメール送信プロトコルであるSMTPのしくみ上、実際の送信者に関係のないところからも送信者を偽装してメールを送ることができます。メールの送信者のドメインは正当であると送信者が示し、受信側はその正当性を検証する。送信ドメイン認証はそのような概念です。

現在広く使われる送信ドメイン認証は「SPF」「DKIM」です(DMARCは送信ドメイン認証の結果をどのように扱えばいいかを送信側が受信側に伝える仕組みなので、送信ドメイン認証かというと違うかな、と。 ※今後、DMARCの説明をする予定です)。

「SPF」を設定しておくことは必須です。これが設定されていないとIPレピュテーションによるメールが届いたり届かなかったりというよりも大きく、メールが届かない状況が多発します。「SPF」も「DKIM」もその解説や設定の方法はインターネットにたくさんあるので、この項ではスキップします。

IPレピュテーションとは少し脱線しますがたぶん日本特有の「SPF」の使い方が1つあります。au のキャリアメール(@au.com, @ezweb.ne.jp)です。auのキャリアメールでは、この「SPF」による認証について、新規契約や機種変更時「なりすまし規制(高)」という設定が適用されています。

なりすまし規制 | 迷惑メールフィルター機能 | au

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メールには2種類の送信者=Fromメールアドレスがあります。「1.エンベロープFrom」と「2.ヘッダFrom」です。エンベロープFromはメールを送って届かないときに戻ってくるメールアドレス、ヘッダFromはメールが届いたときの受信者に見えるメールアドレスです。

SPFは、エンベロープFromを対象にした送信ドメイン認証の仕組みです(※このあたりが詳しい →  IA japan の SPF 説明)。しかし、auの仕組みではヘッダFromも対象にSPFを検証し、なりすまし規制(高)で設定した契約者へはメールを送りません。このなりすまし規制(高)はデフォルトです。

もし、au のキャリアメールにだけ届かない、みたいなことあれば、上の点を確認することをお勧めします。

④ブラックリストに誤掲載されていないかチェック

インターネットには、迷惑メールを送ってくるIPアドレスをブラックリストとして管理し、公表する団体または契約者に配布する会社があります。影響が大きいブラックリストは「Spamhaus」「SpamCop」「SORBS」「proofpoint」です。前者3つはそのブラックリスト全体を誰でも参照可能です。最後の proofpoint ではブラックリスト全体は契約者のみ取得可能ですが、あるIPアドレスがブラックリストとして登録されているかどうかは誰でも調べることができます。

受信するシステム(Gmail、Yahoo!メール、outlook.com、iCloud などがメールを受け取るとき)は、メールの送信IPアドレスがブラックリストに掲載されていれば、そのメール送信IPアドレスのレピュテーションを下げ、迷惑メールが来るのを防ぎます。このブラックリストの仕組みは有益で、これがなかったらインターネット全体が迷惑メールであふれかえってしまいます。

しかし、迷惑メールを送っていないけれども、送信に使用しているIPアドレスがブラックリストに掲載されてしまう場合があります。特に、受信者に好まれない配信やバウンスレートの高い配信によって、迷惑メールでなくても登録される可能性が増えます。

このためメール送信のIPレピュテーションを維持するには、定常的にIPアドレスがブラックリストに(誤)掲載されていないか、確認することが大事です。

IPレピュテーションは最初低いのでウォームアップさせる

ここまで読んで来た方は「メール送信のIPレピュテーションを良くする・維持するのは手間だなぁ」と感じたでしょう。いままで説明した4つの要素に加えて、「メール送信のIPレピュテーションは最初低い」という要素もあります。

Microsoftさんはこの点を outlook.com > postmaster > トラブルシューティング に記載しています。親切です。

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outlook.com に限らず各メールを受信する側は、メール送信での使用を開始したIPアドレス=新しいIPの評価を低く位置づけます。

受信する側から見ると、いままで見たことのないIPアドレスからメールが送られてきたとき、これが迷惑メールの送信元なのか正当なメールの送信元なのか分かりません(メールの認証があっても迷惑メールの送信元がドメインを取得していれば、認証自体は通ってしまう)。受信する側は、見たことのないIPアドレスの評価を低く位置づけ、時間あたり一定数以上を受け取らないことで、迷惑メールが受信者に押し寄せることを防いでいます。

新しいIPアドレスでメール送信を始める際は、そのIPアドレスから送る量を制限しながら送信を行い、受信する側に「正当なメールの送信元です。レピュテーションをあげてください」とお願いする必要があります。送る量は徐々に増やしてゆき、1ヶ月~2ヶ月程度でメール送信のIPレピュテーションが決まると捉えて計画し対応します。徐々にIPアドレスからの送信量を増やしていくことを「ウォームアップ」と呼びます。

最後に

メールが届くかどうかを大きく左右する「メール送信のIPレピュテーション」の向上・維持には(ここに書けなかったことも含め)様々なノウハウがあります。

メール送信について「こんな面倒なことは自分のところでやるのはしんどい(他にもいろいろすることがあるんだ)」というお悩みを持つ方、弊社のWEBCASというサービスへ、お気軽にお声がけください。

今回書いた内容は、M3AAWG というメッセージングを扱っている企業や団体の集まりが、メール送信者に対して推奨する事項をまとめた M3AAWG Sender Best Common Practices(日本語訳版) と重なっていると思います。こちらも参考ください。

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