寿司屋の大将から学んだ、突き詰めていったその先にある、これからの時代を生き抜くための5つのこと
昨日は友人と寿司屋で会食だった。友人が世界一の美味しさということで、連れていってもらったのだが、確かに本当に美味しかった。
私の中でも人生で最も美味しかった。
しかし、それ以上に、「面白かった」
寿司屋が面白い?いったいどういうことだろう?ぜひ読み進めてほしい。
寿司屋で、いや、料理屋で、「面白い」という気持ちを抱くのは、人生で初めてかもしれない。
大将は14歳で寿司の世界に飛び込み、そこから32年。寿司、いや、食、というものを突き詰めて、突き詰めて、そして、突き詰めて今がある。
カウンターに10席しかない寿司屋。そのカウンター越しの大将との会話。
これが実に「面白かった」
最高の寿司を握り、それが目の前に乗る。
その間隙にある大将の語る言葉。それが実に「面白かった」
1 当たり前を覆す
塩、それは味付けに使うものであり、薬味である。寿司は通常は、醤油でいただくが、中には、塩を振りかけるタイプもある。ゆずを一滴垂らす、というのもあるだろう。
この寿司は、のど黒の焼き寿司。
大将は考えた。この食材の本当の最高のパフォーマンスを引き出すにはどうしたら良いか。のど黒を絶妙な焼き加減でレアに仕上げる。それだけでは足りない。そこに海で力強く泳いだこの魚の鱗。その強さを実現したい。そのための「装飾」、それが塩なのだ。
塩を極限まで焼き切り、それを最後鱗部分にまぶす、レアの焼き身と硬い食感の鱗をイメージした焼き塩。このハーモニーによって、ようやく、この魚の本当のパフォーマンスを引き出せる。
塩は味付け。そういう常識を覆すところに、感動がある。
大将との会話はこんな具合なのである。実に面白い。
2 アプローチと切り方
イカ。
イカのお寿司。私も含めて、普通イメージするのは、回転すしならば、必ず、最も安い皿100円で出てくるもの。そんなイメージだろう。
まずは手には取らない、どうしても頼みたいかというとそうではない。脇役のイメージ。
大将はまた考えた。この食材の最高のパフォーマンスを引き出すにはどうすれば良いか。
アプローチと切り方。
イカは粘土質、硬さ、粘り、それが強すぎると口の中でまどろみ、もたつき、美味しくなくなる。一方、その粘りが絶妙なバランスで口の中に広がるならば、それはこれまでにない感動に変わる。
マグロと言えば、大間のマグロ。食材で勝負だろう。
このイカは、大将曰く、普通のイカ。普通にスーパーで買えるイカ。しかし、アプローチと切り方で、この食材は、一気にメジャーリーガーにまで駆け上がる。
60回の切り込みを、表と裏に入れる。詳細は芸術の域を超えて、私には感知できないが、1つ1つの切り込みのアプローチ。そして、その切り方。
それを施すことで、このただのイカは、人生で最高に旨いイカに化けるのだ。
大将との会話はこんな具合なのである。だから実に面白い。
3 理屈を突き詰めて、理屈が通らぬものを創る
車海老
一つは熟成したものであり、1つは生えび。
一般的なイメージは、熟成したものは、しっとりとした食感、深い味わいだろう。生えびのイメージは、見た目の通りの舌にぬめりと絡みつく食感を楽しむものだろう。
ところで、熟成とはなんだろうか?
熟成肉という言葉もよく聞く。では、熟成肉はなぜ美味しいのだろうか。
熟成肉とは、乾燥した低温の食品庫に長期間保存することで、表面を意図的に腐らせ、カビを作り出す。カビが全体をコーティングする役割をし、旨味、アミノ酸が肉の中央に濃縮され、それが旨みを引き出す。
食べるためには、表面のカビを削り取る必要があるため、体積は3割から4割減となる。だから、旨いが値段が高い。40日熟成などは実にうまい。
では、魚を熟成させるためにはどうしたら良いか。同様の方法で40日もやれば、魚は全体が腐る。2日もすれば腐って食べられなくなる。どうすれば、魚の熟成は可能なのか。
大将のアプローチは、「顕微鏡」だった。
熟成肉、熟成と言われ旨いものをつぶさに顕微鏡で見まくった。何が旨いのか。どのような「状態」が旨いのか。職人の感覚ではない。そこには理屈があるはずだ。
理屈を突き詰め、その原因を探る。なぜそれが旨いのか。
そして、それを実現するアプローチを探し出す。
理屈を突き詰め、突き詰め、その味にたどり着く。そして、さらに、その中に、理屈では説明できない物も織り交ぜる。何十日も魚は熟成できない。理屈の通らぬ要素を加えるのである。
理屈を突き詰めて、理屈が通らぬものを創る。
大将との会話はこんな具合なのである。誠に面白い。
4 感動は再現できなければ、商売にはならない
大将は言う。
あと10年で引退、そして日本や世界を周り、伝えていきたいと。
寿司職人と言えば、丁稚奉公から始まり、大将の背中から学び10年でようやく包丁を握らせてもらえる。
そんな話をよく聞く。
確かにそのような昭和のガテン系のアプローチも良い面はある。
この大将にも師匠はいた。18歳の時に出会った。その師匠から多くを学んだが、顕微鏡から見える景色の中には、間違ったものもあった。
多くを学んだが、全てを造り替えた。
食材の最高のパフォーマンスを引き出すには、どのようなアプローチと切り方が良いか。
寿司屋とは、狭い佇まいで7席から10席のカウンターであるべきだ。誰がその常識と思い込みを産み出したのか。大将の次の店舗は、3メートル50のカウンターに4人だけ座っていただく。そのカウンターを3つ用意する。なぜか? 狭いカウンターでは、お茶を差し出すたびに、すいませんとお客様の体をひねっていただく必要があるからだ。いかにこれまでの常識を覆すか。
顕微鏡をのぞき、調理の仕方を汲み上げ、それを化学式として成立させる。
2021年6月5日、布施スプリントで山縣 亮太選手は100m、9.95秒という日本新記録を打ち立てた。
スポーツはもはや科学である。どの筋肉を鍛えれば、早くなるのか。どのように腕を振れば、空気抵抗が少なく、推進力を生み出せるか。スポーツ科学は学問となり、オリンピック引退後の選手の多くがその学問をさらに突き詰め、人類の次なる限界を突破していく。
寿司とは、化学である。大将の行き着く先には、寿司化学と言う学問が成立した未来が見える。
化学には化学式があり、だから再現ができる。感動は化学式で表すことができ、再現できるものは商売となる。
しかし、その先に、理屈の通らぬところを、アクセントで加えねば、さらに大きな感動は生まれない。
大将との会話はこんな具合なのである。げにまっこと、おもしろい。
5 突き詰めた先に、最後に「売り」に出来るもの
大将は語る。
この情報化社会、どんな物事も瞬時に世界最高の方法が出回る。容易く、最高のアプローチの情報だけは手に入る。
もちろんそれをモノにするには努力が必要な要素もあるが、今の世の中は何が起きているか。誰もが一流のアプローチを知ることができるゆえに、「均質化」が起きているのだ。
これは、「学習の高速道路が出来上がり、その先に大渋滞が起きている」と15年前に看破した、羽生名人の言葉に通じる。
関西風の焼き方で、味付けは関東風といううなぎの蒲焼
「突き詰めない人間など、成功できようはずもない。それは論外。だが、突き詰めて、突き詰めて、突き詰めて、努力したその先に待っているのが、「均質化」、金太郎飴じゃやってられないじゃないですか。
突き詰めてるアプローチを、最高のアプローチを、もう誰もが知り得る。それが今の世の中なんですよ。
じゃ、突き詰めて、突き詰めて、突き詰めて、その先に売りにできるもの。商売に出来るものってなんだと思いますか?
もはや自分しか残っていない。
個性です。ユニークネスです。世界でたった一人しかない自分という人間を売るしかない。
誰も真似できない。ようは変人ですよ。
顕微鏡見て寿司握りますか?
60回、切り刻みますか?
最後の最後、売りにするのは、世界にたった一人しかいない、「自分」という存在なんです。
自分という存在で、感動を創り出すんです。」
・・・
ビジネスを突き詰めていくために、顕微鏡を引っ張り出してアプローチしたことがあるだろうか。
社員の最高のパフォーマンスを引き出すために、どのようにアプローチすれば良いか、まだまだ深く突き詰めることがあるのではないだろうか。
市場で勝つために、その業界を60回切り刻んで(セグメント化)捉えことがあるだろうか。
最後に売りに出来るもの。それは、自分であり、自分の個性。それを更に磨き上げるために、もっと突き詰めること、世界のどこにもいない、変人としての自分を創り上げることは、まだまだ、出来るはずだ。
私は45年の自分の人生を振り返ってみた。45年間の中で、世界でユニークでレアだと思える私の個性は、「映画を3500本鑑賞したくらい」しかない。
これからの人生の生き方のアプローチと切り方を学んだ夜だった。
最高に面白い寿司屋だった。これは私の中で最高の賛辞の言葉である。
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