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eternal flame…永遠の愛 7

~前回のあらすじ~
悦子はアミールとの出逢いで初めて心の葛藤を
感じていた。何もなくただ平凡に過ぎていく毎日…
そのまま過ごしていれば、葛藤も自分を振り返ることも
なかったはず。
エジプトでの出来事、彼との出逢いが悦子に
たくさんの振り返りをもたらしているようだ。
悦子はどこかで分かっていた、
この葛藤はきっと良いことにかわる…
保証なんてどこにもないがただ『わかっていた』
引き続き二人の間に繰り広げられる
新たな心境の変化をお楽しみください。


彼のオフィスはカイロの中心街から少し離れた所にあった。
ビジネス街らしく、周りにはたくさんのビルが
所狭しと建ち並んでいた。
もう夜の7時だというのに、暑さは昼間と変わりない。
悦子はアミールの車のドアを開けた時にむせかえる熱気に一瞬クラッとした。

目の前のビルの14階が彼のオフィス。
アミールは悦子を試すように尋ねた。

「僕のオフィスは何階か覚えている?」

「14階!」
悦子は即答して14階のエレベーターのボタンを押した。

「素晴らしい!そのとおり!」
アミールは驚きながらも覚えていてほしい…と
願っていた。

「忘れるわけないじゃない…」
悦子は聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。

”忘れるわけないじゃない…忘れられるわけないじゃない”
悦子は心で叫んでいた。

はじめてエジプトを訪れた時、アミールは自分のオフィスに悦子を招いた。予定外の出来事に悦子は
”私は彼にとってどんな立ち位置なんだろう?”
と困惑していた。

「僕は少し仕事が残っているから、ちょっと待っていて。 すぐに片付けるから…自由にお茶でも飲んで楽にしていて」

「わかった…」

わかったとは言ったものの、たくさんのスタッフが仕事をしている中、悦子はどうしていれば良いのかわからず、携帯をひたすらいじっていた。
アミールには電話がひっきりなしにかかってきていた。
終わったと思うとまた電話が来る…

もう夕方になっていた。
スタッフの大半は帰り、アミールともう一人モハメッドが仕事を続けていた。

座りっぱなしの悦子はお尻も痛くなったので、そっとオフィス探検をはじめた。

静まり返ったオフィスは昼間とは違う顔、神聖な感じさえした。

たくさんの部署に分かれていたことに驚き、給湯室もあり、何故か使われていないバスルームもある。

”わぁっ!おもしろい”

悦子は宝探しのようでワクワクしていた。
そんな中、少しだけ開いているドアを発見し、恐る恐る中を覗いた。

「わぁ~!!!すごーい、きれい」
悦子はホールのように広いガラス張りの部屋を発見したのだ。
テーブルはただ一つ、デスクトップのPCが一台。
そこからは周りのビル群が一望できる。

悦子が観たのはビルの間に落ちていく大きなオレンジ色の夕陽だった。
全身に鳥肌がたって、涙が流れた…
もうこれだけの景色を観ることができたのだから、私はこれだけで十分幸せだと、エジプトに
思いを馳せていた。

「ここに居たんだ、探したよ」
アミールの声が背後から聞こえたが悦子は動けなかった。

「アミール…夕陽がとてもきれいで感動しちゃった… 幸せです!ってエジプトに挨拶してたの」

アミールも何となく悦子に近づくことができず、
近くのテーブルの上に腰をおろした。

「君はとても繊細だね…そして、とても美しい」
アミールは夕陽に映える悦子の細く引き締まった身体を視線で愛でていた。

悦子はイスラムの縛りを自ら壊して、アミールの
胸に飛び込んだ。

「アミール、ごめんなさい…アッラーに怒られるかもしれない、だけど私ねあなたをずっと待っていたの…この時をずっと待っていたの。
I missed you so much…」

アミールは悦子を抱きしめた。
アミールも同じ思いだった…
悦子は初めての抱擁に包容を感じられずには
いられなかった。

”こんなに安心できるhugは経験したことがない…"
Melt down 熔けてなくなってしまうような感覚だった。

美しい夕陽の中に熔けていくように
2人は何も言わずそっとキスを交わした…
熔ける速度は次第に速くなるばかり、彼も待っていたのだ。
神様にも誰にもこの2人の今を裂くことはできない、悦子は部屋の壁に優しく抑えつけられていた。

1枚また1枚…今までの過去を脱ぎ捨てるかのように
床には洋服が広がっていく

「やっぱりダメよアミール…」
悦子はそう言って彼の手を止めた。

「どうしたんだい?」
アミールは優しい目で悦子を覗き込んだ。

「ここはあなたのオフィスよ、それにまだモハメッドが残っているでしょう…」

「彼はさっき出かけたよ、どうやら気を遣ってくれたのかも」
そう言って、アミールは悦子の首筋にキスをした。
真昼の熱さよりも身体が熱を帯びていく…
"お願い!どうかこの時が永遠でありますように"
2人はお互いの身体を重ね合いながら、
言語の違い、文化の違いを乗り越えた先の
まだ見ぬ光をつかもうとしているようだった。


遠い街のため息も噂も全く聴こえない2人の世界。
行き先を決めない果てしない旅かもしれないが
2人なら上手くいくとお互いが確信していた。
悦子は恥ずかしそうに
「痛いっ」と声を漏らした。
「大丈夫?」アミールが心配すると
切ない顔をしながらも悦子は彼を求めた。

悦子と夫の夫婦生活は破綻していた…
必要な時にだけ呼ばれ、さっさと済まし、
雑なSEXに夫を信じられなくなったからだ。
悦子も女。時には求めるも
「こういうの俺の休みの前の日にしてくれない?」の言葉に"イラナイ"と悦子の心が決めた。

アミールは初めての悦子の身体を最初から
わかっているかのようだった。
優しく耳元で囁き、悦子に悦を与えるために…
彼はまるで自分を抱きしめるように悦子を
しっかりと抱いた。

2人は果てた後、顔を見合わせてクスッと笑った。
アミールは一言
「ようこそ、僕たちの世界へ」と言った。
特に意味はないのだろうが、もしかしたら
アミールはこの時すでに全てがわかっていたの
かもしれない。

女は一度身体の関係を持つと、相手を忘れられなくなる…
その行為を"愛されている"と錯覚するのだろう。
人は皆、愛されたい気持ちはある。
自分で自分を満たしていないからこその感情の
ように感じる。
他者を通して、自分を満たす…
他者がいなければ満たすことができなくなる。
依存という言葉…

悦子に一瞬、そんな言葉が浮かんだが
裏腹な思い…
"一生後悔しない相手を選ぶより
 この人となら後悔してもかまわない相手を
 選びたい"
覚悟にも似た強い思いがこの時すでに宿っていた。


”忘れるわけないじゃない…忘れられるわけないじゃない” 
あの日の出来事は悦子の人生を変えた…
身体を重ねたから?
いや…違う…
お互いを知っていた答え合わせができたのだ。
この時の悦子はとてもとても焦っていた。
誰かに追い立てられてる訳ではない、
期限がある訳ではない…
"早くしなきゃ"
それは出逢ってしまったが故の焦燥感…
絶望感にも近かった。

そして、あれから約一年…
悦子は再び彼のオフィスを訪ねている。
不思議なようでいて、当たり前のような
気持ちでいた。

オフィスに着いた2人は一番奥の部屋へと
向かった。
すでに夜ということもあり、スタッフは
いなかった。残っていたのはビジネスパートナーのモハメッドだけ…
彼に挨拶をすると
「Welcome back ! Etsu」と笑顔で応えてくれた。

"モハメッドは私とアミールの関係を
知っている…多分"
そう思うと彼の行動がソワソワしているように
しか見えなかった。

「悦子、明日のフルガダ行きのミーティングを
 はじめよう!」そう言ってアミールは
 自分のPCを開いた。

「アミール、何人で行く予定なの?」
悦子は敢えて"予定"という言葉を遣った。
深い意味はないが、少しの抵抗でもあった。

「僕も入れて4人!部屋を2つ抑えようと
 思うんだ。メンバーは僕のクライアントと
 親友のアリ…アリのことは知ってるよね?
 クライアントは女性。名前はノーラン…
 そんなところかな。質問があればどうぞ」

彼の親友アリとは去年、一緒に夕飯を食べた仲。
もちろん、アミールも一緒だったがとても繊細で
女性のような儚さを感じ、何かチカラになって
あげたいと思わせるような人だった。
整った目鼻立ちとスラっとした体格…
職業も医療事務でしっかり稼いでいるよう
だったが、結婚も彼女も無し…
悲しみを背負って生きているように悦子は感じていた。
アミールと私は彼をミスターアローンとふざけたあだ名を
つけて彼を茶化していた。

「あ、ミスターアローンね」
悦子は片手を顎にあて、遠い目をしてふざけてみせた。

「そ、ミスターアローン。明日もアローン」
アミールも悦子と同じポーズをとった。

「ね、アミール…クライアントのノーランって人は、どんな人?」

「ま、会えばわかるよ、OK?」

悦子はあまり詮索されたくないのかも…と思い、
それ以上聞かなかった。

「よし!ホテルとフルガダ行きのバスの予約完了!明日が楽しみだよ」
アミールは手配通りに事が進んでいることに満足気だった。

悦子はこの旅がアミールとの初めての大喧嘩になることを、
この時知る由もなかった…


次回、eternal flame…永遠の愛 8
お楽しみに♡




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