そこにボムギュがいた 妄想目撃者たちの声 #1
Day1 : 東急ハンズ渋谷店の文具コーナー
学校帰りだったのかな、大きなリュックを背負って度の強そうな眼鏡をかけた彼が、ボールペンの試し書きを何本も何本もしていました。何を書いてるんだろうって気になったんですよね。そのうち納得したようにうなずいて、ノック式のゲルインキボールペンを1本だけ選んでレジの方へ向かって行ったんです。急いで彼が試し書きをした紙を確かめに行くと、色とりどりのテディベアのイラストが描かれていました。
Day2 : 神保町欧風カレー専門店のカウンター席
今やってる現場の資料を探しに古書店街に来たのに、お目当てのものを探し当てることができなくて。くたびれ果てて入ったカレー店のカウンター席で隣になったのが彼でした。左手の人差し指、中指、薬指で挟み持ちした文庫本で顔を隠すようにしながらカレーを口に運んでいましたが、喉ぼとけと、時折見える美しすぎる横顔で彼だとわかりました。足元には大量の本が入った紙袋が置かれていました。彼がどんな本を買ったのか気になってしかたありませんでした。
Day3 : 池袋ビックカメラPC館ゲーミングフロア
臨時収入があったから、ゲーム用のキーボードを見に行ったんだけどね。お目当ての製品の試し打ちしてたら横ですごい速さでキーを打ってる奴がいて。カタカタカタカタってさ。うるせえなと思ってそっち見たら背の高い、あり得んほどのイケメンが最新機種を前にうほうほ言っててさ。俺の視線に気づいたのか、向こうもこっち見てきたから急いで目を逸らそうとしたら、満面の笑みで会釈してきたんだよ。その笑顔見て俺も思わずにっこりしちゃった。でもあいつ相当ゲームやりこんでるな。
Day4 : 箱根星の王子様ミュージアムのエントランス付近
この前の連休に箱根の温泉宿に両親を連れて行ったんです。親孝行旅行と称して。フランスかぶれの母がもうすぐ閉館してしまうこの施設に行きたいというので帰りがけに寄ったんですよ。エントランスのところで、入館する私たちと入れ替わりに出ていく彼を見ました。はい、間違いありません。あれは彼でした。金髪の彼とゆっくりすれ違った時、母が私の耳元で囁いたんです。「今の子、星の王子様みたいだね」って。
Day5 : 都内某MINI正規ディーラーの契約カウンター
いつかMINIを買いたいという兄に付き添って、国道沿いのショールームに行ったんです。私たちが新型モデルの説明を受けている時、背の高い父子が契約カウンターで書類に記入をしながら嬉しそうに笑っていました。息子さんの声がとても大きかったのと、どこかで聞いた声だったのでよく見てみたら、あの彼だったんで驚きましたよ。車が好きとは知ってたけどこんな場所で会うなんて。誘ってくれた兄に感謝です!
Day6 : 四ツ谷須賀神社入り口階段
東京に下宿してる友達に会いに上京して、ふたりで大好きな映画の聖地巡りをしていたんです。この神社の階段で写真を撮ろうって決めてたので来てみたら……。
有線イヤホンをつけた背の高い彼が、階段の鉄の手摺に寄りかかりながら空を仰いでいたんです。なんだか自分の世界に入ってしまってましたね。彼こそがその映画の主人公みたいでした。私たちが順番に写真を撮りあってたら彼がふたり一緒に撮ってあげると言って撮ってくれたんですよ。いい人だったなぁ。
Day7 : 井の頭恩賜公園スワンボート乗り場
夫と3歳の娘と一緒に公園の中の動物園に行ったんです。その帰り、ちょうどボート乗り場のあたりで娘が持っていた風船の紐から手を放してしまって。そしたらボートの順番を待っていた彼がひょいとジャンプして、今にも空に舞い上がろうとする風船を捕まえてくれたんです。私たちは彼のその軽やかな身のこなしと、あまりの美貌に言葉を失ってしまいました。お礼を言ってその場を離れ、池のほとりのベンチでおやつを食べていたら、スワンボートのひとつから、「おーっ」とか「わーーっ」とか騒ぐ、野太い声が聞こえてきました。そこに乗っていたのが彼だと気づいた時、さっきのイメージとのギャップに驚きました。
Day8 : 学芸大学駅近くの町中華の小上がり席
ここでのバイトが楽しくなったのは、彼が週一くらいで来店するようになったからです。いつも店が空き始める2時くらいに来るんですよ。寝起きなのかな、髪に寝癖をつけてるんです。座る席も頼むメニューも読む漫画雑誌もいつも同じ。夕方来ることもたまにあって、その時はビールを飲んでますね。彼の飲みっぷり見てて気持ちいいんですよ!この前は女将さんが大将に内緒で餃子をサービスしていました。女将さんは私のライバルです。
Day9 : 葛西臨海水族園アクアシアター前
久しぶりのデートだというのに彼氏が大寝坊して、あの巨大な水槽の前で待ちぼうけを食うことになったんです。「今から家を出る」ってメッセージを読んだ時には腹が立つというより悲しくなってしまって。こそこそと涙を拭いていたら、私の隣で水槽に両手を押し当てて、回遊するマグロの群れを熱心に眺める彼を見つけたんです。その無邪気な横顔を見ていたら、私も彼氏を待つ間、海の世界を思う存分堪能しようと思えてきました。そして私には彼氏を待たずに、このまま帰る自由もあるのだと気づいたんです。
Day10 : 早稲田松竹ジャック・リヴェット監督特集回
最終日だったんですよ、その日。なのにそこまで人は多くなくて。「セリーヌとジュリーは舟で行く」が観たかったんですよ、どうしても大きなスクリーンで。それで仕事をずる休みしてきたんです。映画が始まる直前に私の2つ隣の席に彼が座りました。信じられませんでした。思わずあっと小さな声をあげてしまった私に、彼は人差し指を唇に当ててウインクをしたんです。だめだよって。はい、そうです。映画のことはよく覚えてません。始終ドキドキしてしまって。
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