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裁判官は宇宙人 これでも貴方は裁判員制度に参加しますか (半田 亜季子)

 地上げにかかわる「土地境界確定訴訟」の被告となった著者自身の裁判体験レポートです。

 裁判官・書記官、相手方弁護士等が支配する「法曹界」という特殊な世界に、無防備に入っていった著者自身の奮闘ぶりがリアルに描かれています。

 裁判が進むにつれて、裁判官は「正義の味方だ」という著者の素朴な思い込みが見事に崩壊していきます。

(p79より引用) 一体、何のための裁判なのか。裁判官は、私たちの味方なのか、敵なのか。初めのうちは地上げ屋と戦っているつもりだったが、裁判の回を重ねるたびに、もしかしたら私たちが戦う相手は、事件の本質を知ろうとしない裁判官なのではないかという気がしてきた。

 私にも、「シックハウス症候群」で不動産会社相手に裁判で戦った経験がある友人がいます。
 彼は、裁判官はともかく相手方弁護士の姿勢にはものすごい憤りを感じていました。形式的には整えられた「書面」で、平気で「ウソ」を主張してくるのだそうです。これも「法廷戦術」の常道なのでしょうか?

 弁護士もそうですが、裁判官にもいろいろな人がいるのでしょう。裁判官の判断を「一般人の常識?」に近づけるための著者の提案です。

(p143より引用) 裁判官を「人」にするか「宇宙人」にするかは、裁判所の内部だけの問題ではないような気がする。裁判官が「人」として、慣例ではない良い判決を下したときは、マスコミが評価し、報道すべきだと考える

 しかし、どうでしょう?
 この提案は、裁判という特殊専門性をもつ閉鎖的世界の常識に、外部の評価軸を加えるという点では意味がありますが、新たな疑問も生じさせます。「マスコミ」の評価軸は正当か否かという点です。残念ながら、この点については、必ずしも信頼に足るとは言い難いのではないでしょうか。

 さて、著者は、自らの裁判体験を踏まえて、「裁判員制度」についてもコメントしています。

(p162より引用) 裁判官と国民をつなぐパイプとして「裁判員制度」を誕生させるのだろうが、法の分からない国民と人の気持ちが分からない裁判官が果たして、どんな形で融合できるのか、疑問が残る。

 これからは、誰もが、裁判の原告/被告という立場に加えて、裁判員という「裁く立場」になる可能性が出てきたわけです。
 もちろん、本書で採り上げられているケースは異例なものではあります。が、半面、こういう実態があるというのも厳然たる事実だということです。

 裁判という未知の世界の「限られた一面」を知るうえでは、とっつきやすくなかなか興味深い本だと思います。



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