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だまされる脳 (日本バーチャルリアリティ学会)

 バーチャルリアリティ(VR:Virtual Reality)をテーマにした「知覚心理学」の初心者向け入門書です。

 バーチャルリアリティとは、「コンピューター上に構築した環境の中で、視覚や聴覚を通じて、空間を移動したり状況の変化を体験したように感じること」で、仮想現実とも言います。
 体験者はさまざまな機器をつかって、仮想の対象をあたかも実在の対象であるかのように感じ、操作することができます。そして、この自然な双方向のやりとりによって、体験者は疑似的に普段と同じようなコミュニケーション感覚を得ることができるのです。

 本書の説明では、
 “実体そのものとしては存在しないが、機能・効果として存在するのもの”
ということになります。まさに、映画の「THE MATRIX」の世界です。

 こういった本を読むと、素直に「人間の脳の性能」に驚愕します。
 本書では、バーチャルリアリティ技術を扱っていますから、特に「五感」に関する説明が中心になります。
 たとえば、「見る(視覚)」ことだけでも、改めて言われてみると、脳はものすごい処理を行なっているのです。

 「見る」という処理は、以下のように捉えられます。

(p28より引用) 三次元の世界は二次元の目によって記録され、脳によって三次元的に解釈し直されているのです。・・・
 脳は実に巧みな方法で三→二→三次元問題を解いています。このとき脳は二次元的な情報から三次元の世界を構築するために、さまざまな情報源(手がかり)を使っています。

 三次元→二次元への変換は大したことではありません。通常のカメラと同じです。レンズが水晶体で絞りが虹彩、フィルムが網膜に相当します。写真の場合と同じく、網膜上に二次元の像が結ばれるわけです。

 問題は、この二次元の像をいかにして「三次元のイメージに再構築する」かです。ここで、脳は、様々な感覚器からの情報を駆使して複合的な情報処理を瞬時に行ないます。
 ・輻輳と調節という「眼球運動に関連する筋肉の緊張の変化」
 ・目が水平に6.5cm離れた位置にあることにより生じる「両眼視差(両眼網膜像差)」
 ・時系列的な網膜像差である「運動視差」
 ・そのほかの奥行き情報としての各種「絵画的手がかり」
といった種々の情報をもとに、脳は、三次元の「視覚世界」を作り上げるのです。

(p230より引用) 私たちが知覚しているものが物理的世界そのものでないことに気づくことによって、いかに私たちの脳がすばらしい創造を行っているかを認識することができます。
 私たちの脳が確かに意識を持った存在であることの証と考える、活き活きとした鮮明な感覚経験(つまりクオリア)こそが、実は皮肉にも脳による最大の虚構であるわけですから、私たちが知っている日常の世界が究極のバーチャルリアリティあるといえないこともありません。

 なるほど、究極のVR(Virtual Reality)は、思いのほか身近なところにあるんですね。


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