日本海海戦の真実 (野村 実)
司馬遼太郎の「坂の上の雲」では、東郷平八郎連合艦隊司令長官・参謀秋山真之らが日露戦争における日本海海戦勝利の立役者として描かれていますが、本書は、当時の海軍極秘資料から、そういった通説?とは別の結論を導き出しています。
まずは、日本海海戦勝因の一つ、バルチック艦隊通過コースの予測の経緯を辿ったくだりです。
当時、艦隊幹部の間では、津軽海峡を通るという意見が主流でした。
第二艦隊参謀長藤井較一と第二戦隊司令官島村速雄の反対が、東郷の連合艦隊の北進決定を遅らせ、対馬海峡での迎撃を可能にしたとの指摘です。
当時、東郷は「対馬通過を予想していた」との説もありますが、もし藤井・島村両名の反対がなければ、艦隊幹部総意としての北進に同意していた可能性も否定できなかっただろうと著者は考えています。
もうひとつの勝因、連合艦隊の敵前大回頭いわゆる「丁字戦法」の舞台裏についてです。
著者は、司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」の一節を引きながら、こう論じています。
日本海海戦に先立って、東郷は実際三回にわたりロシア艦隊に対し丁字戦法のリハーサルを行いましたが、その三回とも失敗に終わっていたとのことです。
そして四度目、日本海海戦における成功の要因は、「丁字戦法を、バルチック艦隊が逃げることのできない対馬海峡という狭い戦域で実行した」ことによります。もちろん、これは先の三度の失敗からの教訓を生かしたものでした。
最後に、本書の論旨とは離れますが、私として印象に残った記述を記しておきます。著者が語る「参謀の条件」です。
非常に明晰です。特に第二の条件の指摘は勉強になりますね。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?