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ローマ人の物語‐賢帝の世紀 (塩野 七生)

 先に読んだ「ローマ人の物語‐終わりの始まり」マルクス・アウレリウスの時代が中心でしたから、少し時代を遡ったことになります。

 五賢帝時代の中期、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの物語です。この3人の皇帝は、それぞれに個性が全く異なっていて、その対比と連続がなかなか興味をそそりました。

 まずは、トライアヌス
 ネルヴァの後継のトライアヌスは初めての属州出身の皇帝でした。塩野氏は、ここにローマ帝国と後代のその他の帝国との性質の違いが典型的に表れていると指摘します。

(上p29より引用) 勝者であるローマが敗者の属州を支配しつづけるのではなく、属州までも巻き込むことによって一大「共同体」を創成していったのがローマ帝国だが、皇帝たちの出身地の移行の過程に、それが最も具体的な形で示されているからである。

 ローマは、このトライアヌスの時代に最大版図を築くことになります。そして次のハドリアヌスになって、今度は帝国維持の防衛策に大きく舵をきったのです。
 ハドリアヌスは、拡大された帝国をくまなく視察巡行し、帝国維持のための手立てを次々とうっていきます。

(中p116より引用) 以後のハドリアヌスの巡行も、このやり方で進められるのだ。つまり、視察の地域がどこであろうとやらねばならないことと、その地域独自の問題の解決という二つの併行で。・・・
 そして、ハドリアヌスによるこの二つの問題の解決に共通して見られるのは、軍団基地内部の責任体制の明確化である。

 この責任感が、属州出身の兵士たちに同じ属州出身のハドリアヌスが根づかせようとしたローマン・スピリットであったと著者は言います。

 さて、その他、本書で私の興味を惹いたフレーズをご紹介します。

 まずは、最近読んだ「トヨタ」の本に書かれていた「トヨタの強み」の源泉を髣髴とさせるような記述です。

(下p43より引用) ローマ人は、思わぬ幸運に恵まれて成功するよりも、情況の厳密な調査をしたうえでの失敗のほうを良しとする。ローマ人は、計画なしの成功は調査の重要性を忘れさせる危険があるが、調査を完璧にした後での失敗は、再び失敗をくり返さないための有効な訓練になると考えているのである。

 「ローマ人のPDCA」ですね。

 もうひとつ、「ローマ法」について。
 広大なローマ帝国を支えたものとして、道路に代表される社会インフラとともに、制度規範としての法律・法令が挙げられます。

(下p177より引用) ローマは、誰にでも通ずる法律を与えることで、人種や民族を別にし文化を共有しなくても、法を中心にしての共存共栄は可能であることを示した。

 「ローマ法」といえば、東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスによる「ローマ法大全」が有名ですが、それに先立ち、ハドリアヌスによるローマ法のリストラがなされていました。
 これもまた、帝国維持の実効的な手立てのひとつでした。


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