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歸國 (倉本 聰)

 倉本聰氏によるテレビ特別番組『歸國』のシナリオ原作本。たまたま図書館の新着本の棚にあったので読んでみたものです。
 今年(注:2010年)の8月に放映されたとのことですが、私はほとんどテレビを見ないので気づきませんでした。

 あとがきによると、戦後10年ほど経ったころ放送されたラジオドラマ「サイパンから来た列車」という番組がベースになっているとのこと、第二次大戦の英霊たちが、短い時間の間、現代の日本の街を彷徨するという舞台設定です。

 シナリオなので、まだ読んでいない方のためにストーリーを辿ることはしませんが、私の印象に残ったフレーズをいくつか書き記しておきます。

 「断章 靖国」、深夜の靖国神社のシーン。

(p102より引用) 
日下 (描きつゝ)「志村。-貴様は此処で見てたンだな」
志村 「――」
日下 「日本がどんどん平和になってくのを」
志村 「――」
日下 「どう思った日本の変り様を」
志村 「――」
 間
日下 「正しい方角へ変ったと思うか」

 「外郭団体・財務総合研究所」で、妹である老母を孤独死させた自分の甥に向かって、そしてそういうことを許す現代日本に向かっての台詞。

(p137より引用)
大宮 「俺があの海で、最後に夢想し、その後の歳月もずっと夢見てきた、日本の平和の姿っていうのは、――こういう残酷なものだったのかい」
 長い間
大宮 (呻くように)「あんまりじゃないか君。あんまりじゃないか」

 そして英霊たちがつかの間の彷徨を終え元の海に戻るために集まった「東京駅」のシーン。

(p146より引用)
 「無惨に戦死したあのまゝの心で、ひたすら故国の倖せを祈っている。その祈りを君たちは本当に」

 「その祈り」に報いるだけの、「その祈り」に相応しい社会を、私たちは作り上げているのか・・・
 8月15日に振り返るべきとても大事なテーマ。戦争を決して美化はしない、しかし、決して忘れてはならない、と改めて思いを確かめさせられる作品です。



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