イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (クレイトン・クリステンセン)
(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)
発見力
著者は「イノベーションのジレンマ」のクレイトン・クリステンセン。
今回のテーマは、イノベーションの源泉となる「発見力」です。
この力は、本書の原典のタイトル(The Innovator’s DNA)にも表れているように、基本的には「人」に存します。そこで著者は、まず数多くの関係者へのインタビューや調査により抽出された「個人のスキル・特性」としての「発見力」の実態とその獲得方法を示し、続いて、それを組織内に展開していくプロセスについても言及するという構成を選択しました。
最初に、著者が「イノベータDNA」と名づけたものを構成する5つの「発見力」を列挙しておきましょう。これがAppleで言えば「人と違う考え方(Think Different)」の源です。
イノベータは、質問・観察・ネットワーク・実験を通して獲得した多種多様な情報やアイデアを、普通の人が気づかないような組み合わせに「関連づけ(1つめの力)」し直すことにより、新たな事業・製品・サービス・プロセスを生み出すのです。
「発見力」の2つめは「質問力」です。
イノベータは、常に「常識を疑う」という立ち位置から挑発的な質問を繰り出します。
こういった質問で「いまどうなのか」を完璧に理解したイノベータは、次に、それを破壊する「解決策」を探すために次なる質問に切り替えます。「なぜ(無理)なのか?」「なぜ○○ではないのか?」「もし~だったら?」といった類の問いかけです。
「発見力」の3つめは「観察力」です。
対象をじっくり観察することにより新たな気づきを得るわけですが、それにも勘所があります。
ただ、「予想外のこと」は、そもそも意識から外れたところにあるものです。それを「意識的に」探すといっても難しいですね。簡単に気づくぐらいなら「予想外のこと」にはならないわけですから。
何か抽象的なアドバイスで、新たな気づきの実効を上げるのは大変です。
思いがけないものは、必ずしも目に見えるものとは限りません。味覚・聴覚・触覚・・・といった五感を意識的に働かせて探し回るのです。
さらに著者は、残り二つの「発見力」として「ネットワーク力」「実験力」を続いて紹介していきます。著者によると「実験力」はちょっと異質です。
とはいえ、「実験」には手間がかかります。
イノベータは、鋭い質問・子細な観察・幅広い意見収集等によって実験にかかるコストと時間を最小限に止めようとします。しかし、だからといって「実験」は不要にはなりません。実験は、現実の世界で成功に導くための有益かつ膨大な手がかりを与えてくれるのです。
DNAの伝播
クリステンセンは、本書において、革新的なビジネスアイデアを創出し事業化した起業家やCEO―ピエール・オミダイア(イーベイ)、ジェフ・ベゾス(アマゾン・ドットコム)、マーク・ベニオフ(セールスフォース・ドットコム)らへのインタビューやスティーブ・ジョブズ(アップル)、ハワード・シュルツ(スターバックス)らの自伝等の分析から、「イノベータのDNA」としての5つのスキル(発見力)を抽出しその詳細を解き明かしています。
本書の後半では、そのDNAを特別な人に止めるのではなく、組織に伝播させる方法について言及しています。
著者は、この知見をイノベーティブな組織をつくる「3P (People・Process・Philosophy)の枠組」として整理しています。
たとえば、最初のP(eople)、「人材」についてです。
イノベータ個人に必要は素養については、本書の前半で解説されていますが、チーム・組織は、個人の集まりとして一つの有機体として機能しなくてはなりません。そこで重要になるのが「メンバ構成」です。
個々のメンバが自らの得意とする「○○力」を発揮し、互いに補完し合うことにより、組織としての「発見力」の最大化を実現するのです。そして、そのプロセスを経ることで、イノベーティブな個人のDNAはより拡大・充実した形で組織内に反映されます。
さて、こうした「発見力」の強化に併せて、組織(企業)としては、もうひとつの重要な「力」を高める必要があります。「実行力」です。
この力は、多くの場合、イノベータ型の人間には欠けている素養のようです。
HONDAの本田宗一郎氏には藤沢武夫氏、SONYの井深大氏には盛田昭夫氏・・・、しばしば、イノベーティブなリーダの横には、自分の弱点を補完してくれる素晴らしいパートナーが据わっていました。
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