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カウンセリングとは何か (平木 典子)

 以前から職場のメンタルヘルスについて気になっているので、このBlogでもメンタルヘルス関係の本をいくつか紹介しています。
 それらの本には、等しく「コミュニケーション」の重要性が書かれています。もちろん、その中心は、「日頃の職場でのコミュニケーション」です。

 他方、専門的なケアとしてEAP(Employee Assistance Program)も活用されはじめたようです。専門スタッフによるカウンセリングが主なメニューですが、そのあたりに対する関心から読んでみたのがこの本です。(かなり古い著作です)

 カウンセリングの実践現場の様子が、プロセスを追って解説されています。
 まずは、そもそもの「カウンセリングの目的」です。

(p40より引用) カウンセリングとは、単に課題を解決して、よい成果を得ることだけではなく、むしろクライエントが解決のプロセスを体験し、それによって自律や成長が促されることを言う。

 カウンセリングの現場では、この「カウンセリングの目的」について、相談者(クライエント)の誤解や思い込みが少なからず見られるようです。
 カウンセリングは、クライエントの悩みをカウンセラーが解決するのではないということです。あくまでも、カウンセラーは、クライエント自身による解決の援助をするのです。

 「援助」がカウンセラーの役割だとすると、その「立ち位置」がカウンセリングの成否の肝になります。非常に微妙な位置取りです。

(p46より引用) 共感するとは、相手と全く同じになってしまうことでもなければ、自分の感じや考えを相手に混入させることでもなく、違った立場の人間が相手の立場に立って感じ、考えてみようとすることである。それは非常に難しいことである。

 私にとって「カウンセリング」という営みは、今まではほとんど関わりない分野でしたが、本書を通して興味深く思った点を以下にご紹介します。

 まずは、「カウンセラーの職業倫理」について。これは、さもあらんという内容ですがとても大切な事柄ですね。

(p57より引用) カウンセラーの職業倫理には、「自分の能力の限界を知って仕事をする」ことが決められている。

 自分の能力を知り、それを越えている場合は他の専門家にリファー(引継ぎ)をするのです。クライエント第一を貫く「専門家」としての重要な機能であり、正しいプロフェッショナリズムです。

 もうひとつは、「カウンセラーの優しさの源泉」についてのフレーズです。

(p73より引用) カウンセラーは、自分が知らないこと、わからないことが何かを知っていて、決してそれを無視したり、軽視したりせず、わからないこととして大切に抱えていて、いつかは理解しようとしている・・・カウンセラーは・・・、知らないことに対して真摯で、好奇心に満ち、粘り強く向かっていく。それゆえに、カウンセラーは、優しく、謙虚になれるのかもしれない。

 この姿勢には普遍性があります。目指したい姿勢です。

 なお、本書の巻末に「統合の原理としてのシステム理論」という章があります。
 この章で著者は、一般的な「システム理論」の観点から、心理療法に関する諸説の整理・統合をロジカルに考察しており、その検討内容を分かりやすく解説しています。

 私にとっては、カウンセリングの世界でも「システム理論」(ここでいう「システム」は関係性を中心とした広義な概念です)が登場するのかというちょっとした驚きがありました。


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