ロングテール -「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (クリス・アンダーソン)
三つの風
クリス・アンダーソン氏の著作は「フリー」の方を先に読んでしまいましたが、こちらの「ロングテール」も大きなインパクトを残した本でしたね。
こういう、先駆的な「コンセプト」をザックリと切り出して示した著作は、細部の議論の当否はともかくとして読んでみて大変刺激になります。
以下、本書の中のいくつかの議論で私として興味を持った部分を覚えとして記しておきます。
まずは、「ロングテール」の基本コンセプトを説明している箇所からです。
「ロングテール」は、市場がニッチな領域に大幅に拡大することでもあります。著者は、このニッチ市場の開闢に「三つの追い風」が吹いていると指摘しています。
この三つの流れのなかで、現在のマーケットを支配しているのは、第二と第三の風をおさえたビジネスのようです。
すなわち、ロングテールのアグリゲーターとして情報を集め、その集積した情報を検索によりフィルタリングをかけ、さらにレコメンデーション技術によりマッチング処理してエンドユーザーに届けるモデルです。
とはいえ、その前提には、ロングテールを構成する大量なコンテンツの存在が必要不可欠です。そのフェーズを、著者は「生産手段の民主化」と名づけているわけです。
「生産手段の民主化」は、生産者の圧倒的な増加をもたらします。そして、その背景には「ものづくりの動機」の変化・多様化があると著者は指摘しています。
この「評判」という価値は、人に認められたいという根源的な欲求であるが故に、その程度の大小に関わらず、人を創造的な活動に導くものなのです。そしてインターネットの世界が「認められる機会」を飛躍的に増大させたわけです。
さて、本書の最終章、第14章「ロングテールの法則-消費者天国をつくるには」では、ロングテール・ビジネスを発展させるコツが2点にまとめられています。
ひとつは、「すべての商品が手に入るようにする」
もうひとつは、「欲しい商品を見つける手助けをする」
さらに、「ロングテールの集積者として成功するための9つの法則」も紹介されています。
この最後の法則9には、まさに、アンダーソン氏の近著「フリー」で展開した「フリーミアム」の萌芽が見られますね。
先駆的コンセプトの振り返り
クリス・アンダーソンによる「ロングテール」。図書館の返却棚にあったので、今頃になって思いついたように手に取ったものです。
話題になって数年後にこの手の書籍を読むと、その本の指摘が表層的であったのか時代の変化の本質を捉えていたのかがはっきり分かって興味深いものがありますね。
もちろん、本質的には大きなトレンドを掴んでいたとしても、具体的な仕組みとして予測しきれていなかったケースもあります。
たとえば、「オンデマンド印刷」についての著者のコメントです。
今、起こっていることはご存知の通り「電子書籍」に向かった激流です。アメリカでは、アマゾン自らがKindleを投入しiPadの登場で爆発しました。オンデマンド印刷の貢献は「電子書籍」の波に掻き消えてしまうのでしょう。
もうひとつ、「ニッチな世界の拡大」について。こちらはまだ評価が定まっていない例です。
膨大なロングテールの情報の中から自分の趣味嗜好にあったものだけを取り出すことが可能になると、ひとりひとり、細分化されたニッチな世界を持つことが容易になります。
そこで起こる議論のひとつです。
この考え方に対して、著者はこう応えています。
さて、この二つの意見、どうでしょう。
以前のように一部のマスコミが情報の生成から流通までグリップしている世界は望ましいものではないと思います。が、ある種の基準で選別された情報が(自分が好むと好まないとにかかわらず)流れ込んでくるメリットもあったと思います。「受動的な気づきの機会」です。
他方、すでに現代は、多くの人々が自由に発信する0次情報や1次情報がインターネット上に氾濫している世界です。その中で、人々は何らかの方法で自分が欲する情報を選別・入手しなくてはなりません。その有力な手段が「検索」であり「レコメンデーション」ということになります。
この状況は、一見、「情報入手先の拡大・自由化」が実現されているように感じられます。しかしながら、自分自身の「検索」に重きを置きすぎても、刺激に富む飛躍的な情報に偶然出会う可能性はむしろ減少していくでしょう。自分の興味の「連想の範囲内」の情報しか引き出されてこないからです。
この議論は、「AかBか」ではなくてよいと思います。
中庸・バランスと言ってしまうと安易に聞こえるかもしれませんが、せっかくどちらの方法も享受できる世界にあるのですから、それこそ自分の好みに応じて、その二つの道をうまく両立させればいいだけですね。
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