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もし、日本という国がなかったら (ロジャー・パルバース)

 いつも行っている図書館の新着図書の棚で見つけました。
 帯に坂本龍一氏の推薦文が載っていたので興味をもって手に取ったものです。

 著者のロジャー・パルバース氏は、アメリカ生まれですが、50年近く日本に在住している作家です。本書で綴られているのは、そのパルバース氏からの日本と日本人へのメッセージです。

 冒頭、著者自身の若いころを思い起こしながら、日本の若者にこう訴えかけます。

(p26より引用) いま足りないのは「反逆の精神」です。理屈ではなく、両親や祖父母の世代にはだまされた気がするという感覚、自分の自尊心を呼び覚ますには自分なりの価値観を、まずは同世代の仲間のために、作るしかないという感覚です。

 著者は、日本が生み出した多彩な人物の功績にも触れながら、日本を勇気づけるエールを送っています。彼が特に敬愛した宮沢賢治をはじめとして、葛飾北斎・坂口安吾・早川雪洲・南方熊楠・高峰譲吉・・・。彼らは、「創造的な偶像破壊者」であり、卓越したオリジナリティを発揮した偉人たちでした。

(p237より引用) 本来、欧米人は一貫性や対称性にこだわります。でも、日本の芸術とは、多彩なテーマを、スタイルをごた混ぜにして表現するものです。外部からの影響を受け入れる日本の姿勢は、ときには、日本の芸術家を「物まね」や「改良家」のように見せてしまうこともあるでしょう。でも、それは創造の過程における、単なる通過点に過ぎないのです。外からの影響がすべて吸収された後には、独創性のある素晴らしいものが産み出される。日本のオリジナリティは、このような形で生まれるものなのです。

 著者は、40年を越える日本での生活を通して、国際的な視野から見ても最高の評価を受けるであろうような魅力的な人たちと交流を持ちました。井上ひさし氏、大島渚氏、坂本龍一氏・・・。その一方で、自国の文化や習慣の素晴らしさに無頓着な日本人を数多く見てきたとも語っています。

(p309より引用) もちろん、自国の文化をあまりに持ち上げることは、昭和の最初の20年間の歴史を見ればわかるように、悪質なナショナリズムにも発展しかねません。自国の過去と現在を、鋭いバランス感覚を持って眺める必要があることは言うまでもありません。でもぼくは、日本の人々が自国の文化をもっとよく知るようになり、日本の文化を形づくってきた驚くべき人々をもっとしっかり正確に知るようになることを願っています。そうなって初めて、日本の人々は、世界の人々と対等な立場でつきあえるようになるのですから。

 1967年、初めて日本の地を踏んで以来、「日本」は、著者にとって特別な国となりました。
 本書に込められた著者の熱い想いです。

(p33より引用) ぼくは、最も広義の日本文化、つまり日本人の振る舞いかた、態度、人間関係、ものの考え方、独自の世界を創り出す手法などが、21世紀の世界が抱える問題に対して、具体的な解決策を提供できると確信しています。

 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩に、日本人の美徳である「愛他精神」を見る、東日本大震災からの復興が本格化するこれからの日本にとって、著者はよき理解者であり、また、日本人自身も意識していない気づきを与えてくれる水先案内人のようです。

 しかし、日本には、こんな諺もあります。「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」。
 決して、そうならないように、あらゆる機会を捉えて思い起こし、現実を踏まえた未来への営みを、常に現在進行形として位置づけ続けなくてはなりません。



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