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昭和・戦争・失敗の本質 (半藤 一利)

 最近は「昭和史」で有名な半藤一利氏ですが、本書は2009年に発刊された短文集です。採録されている文章は、書かれた時期が古いもので1973年、一番新しいものは2007年と30年以上の年月を跨いでいます。

 舞台となるのは第二次世界大戦。戦争末期の何ともやり場のない権力の独善・独歩を、半藤氏流の語り口で怒りの心情を籠めて綴っていきます。

(p145より引用) 6月22日、天皇は、政府と軍部六人の最高戦争指導会議のメンバーを召集すると、はじめて戦争終結への意思を明らかにした。
 この日からあと8月15日までの終戦史は、調べれば調べるほど腹立たしく、そして悲しい事実がつづくのである。平和がもう日本の門口にまで訪れてきていながら、指導層の大いなる錯誤と無為無策によって、そしてアメリカの無条件降伏以外の講和はないという強硬戦略によって、大日本帝国の徹底的破滅の日が訪れるまで、戦争はやみくもにつづけられたのである。

 本書では、様々な戦争末期のエピソードが紹介されていますが、特に、「日本分割統治」をめぐる画策を描いた章「幻のソ連の『日本本土侵攻計画』」で明らかにされた終戦の月、8月に繰り広げられた米ソ間の交渉過程は息詰まるものがありました。

 ルーズベルトの死去によるトルーマン大統領の誕生が、そして当時のアメリカ駐ソ大使ハリマンの存在が、間一髪のところで日本の分割統治を回避させたのでした。

(p209より引用) その時代の日本人にとっては、この国体という感傷的価値とでもいうべきものを、せめて守り抜こうという決死の努力がそこにあったのである。
 このせめてもの論理をめぐって政府と軍部との大議論の間に、広島・長崎に原爆が落とされ、満州の広野にソ連が怒涛のように侵攻してきた。そして8月14日夜おそく万策つきて大日本帝国はついに降伏した。それにしても、どうせ・いっそ・せめての、なんと哀しき日本的心情であったことよ。

 この間、避けられるべくして苦難に遭われた人々は100万人を越えるでしょう。悲しくも愚かしいことです。あの時期にあの人がいたことが、あの決断をしたことが、あの不作為が・・・、人の歴史の偶発性と不可逆性を考えさせられます。

 まさに65年前(注:本投稿は2010年9月に投稿したものの再録です)の今が舞台、8月、戦争と平和を考えるこの時期に相応しい本です。

4 (注:本書は改訂されて、現在は「昭和と日本人 失敗の本質」という書名で発行されています)



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