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物理法則はいかにして発見されたか 新装版 (ファインマン)

物理の法則

 以前読んだ「ブックガイド文庫で読む科学(岩波書店編集部)」で紹介されていたので、読んでみました。

 著者のファインマン氏(Richard Philips Feynman(1918~88))は、アメリカの理論物理学者です。
 1942年にプリンストン大学で原子爆弾開発のためのマンハッタン計画の初期段階に加わり、翌年からはニューメキシコ州のロスアラモス研究所で終戦までその仕事を続けました。その後1965年に、「量子電磁力学の展開」にて、アメリカのシュウィンガー氏・日本の朝永振一郎氏とともにノーベル物理学賞を受賞しました。

 本書は、「物理法則とは」についてのファインマン氏の講演をベースとしたものです。
 物理学の素養のある読者には非常に興味深い内容のようですが、私にとっては、かなり荷が重いものでした。理論物理の数式が登場すると、もうお手上げです。

 とはいえ、いくつかなるほどと思える話もありました。

 たとえば、「物理学」と「数学」との関わりについてです。
 物理の法則としてある基本的な「原理」が発見されると、あとは、「数学的帰結」で数々の法則が導かれる(p14)という考え方は面白いですね。法則の中にも「根源的なもの」と「派生的なもの」があるのですね。
 ただ、常に「根源的なもの」から考えを進めるのがよいとは限らないようです。
 ファインマン氏はこう語っています。

(p57より引用) つねにきまった公理から出発するというやり方は、定理をみつける能率的な方法ではありません。・・・場合に応じて勝手なところから出発するというほうが、はるかに能率的であります。どれが最良の公理であるかきめてかかるのは、全体を見通すのに必ずしも便利でない。

 このあたりの自由さが、新たなものに向かう姿勢としては重要なのでしょう。

(p192より引用) 科学の存立のために必須なのは、自然とはかくあるべきものだなんていう哲学めいた予断を認めない自由な精神なのです。

先端の科学者

 「そんなものか・・?」と思いますが・・・。ふつうの人からみて「当たり前」の事象が、物理学の「基礎法則」から説明しようとすると、実は大変だというのです。

(p156より引用) 非可逆性が一つのよい例であるわけですが、これほど明白な事実が法則から一目で読みとれるのではなくて、実際、基礎法則から遠く離れた位置にある-これはおもしろいことです。・・・非可逆性は、世界の経済にとって、また歴然とした諸現象、世界の振舞いを理解するうえにおいて、最も重要なものであります。・・・にもかかわらず、非可逆性の理解は基礎法則を知ればただちに得られるというものではない。長い長い解析が必要なのであります。
 物理の諸法則が経験には直接結びつかない、程度の差こそあれ法則は経験から離れた抽象的なものである-こう感じさせられる場合がしばしばあります。いまの問題で、法則は可逆的だが実際の現象はちがうというのも、その一例です。

 このあたりの説明は、段階を踏んで辿っていくと分かったような気になります。

 物理学も世界の理解のための一手段です。
 ファインマン氏は一流の物理学者ではありますが、物理学的な方法のみにこだわっていません。探究のための多角的で俯瞰的な見方を認めます。

(p162より引用) 悪や美、希望の端からにせよ、あるいはまた基礎法則の極端からにせよ、そのような観点だけから全世界の深い理解を得ようと望むのはまちがっています。・・・たくさんの研究者たちが、中間の階層で上下の一段につながりをつける仕事をしております。世界に対する私たちの理解を進めているわけです。階層の両端で働く人々、中間の階層で働く人々-こうした人々のおかげで、複雑に結ばれた多層建築である、このとてつもない世界を、私たちは徐々に理解していきつつあるわけであります。

 現代物理学の「最先端」にいる科学者が置かれているところは、(当然ではありますが、)極限の場所です。「その先の未知の領域」は、今正しいと考えられている法則のどれかを否定することによってしか到達し得ないようです。現在正しいと考えられている法則は、「今」知られている現実や実験結果と合致しているに過ぎないというのです。

 もうひとつ、極限の場では「いくつもの物理法則が根本原理に収斂される」ようです。
 ファインマン氏ですら、不思議に思うのです。

(p246より引用) 物理の基礎法則が、発見の当座には一見して同じとは見えないさまざまの形をとり、それにもかかわらず数学的にちょっといじってみると互いの関係がわかってくる。これはいつ考えてみても私には不思議です。



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