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サンデル教授の対話術 (マイケル・サンデル)

 「ハーバード白熱教室」で大いに話題になったM.サンデル氏の教授法について、氏自らが語ります。
 本書の後半は、サンデル氏と交流の深い千葉大学小林正弥教授によるサンデル氏の講義術の解説となっています。

 さて、最も気になる、サンデル氏の「ソクラテス方式」と呼ばれる対話中心の授業スタイルの誕生の背景についてですが、本書の前半のインタビューの中でこう語っています。

(p29より引用) 私は学生時代の自分が興味を持つことができるような授業を構想したいと思ったのです。
 哲学における大きな考え方を、政治や法、日常の生活で私たちが毎日直面している具体的な論争やジレンマなどと結びつける講義です。・・・私がハーバード大学で試してみたかったのは、対話のために自分自身で考えるといった、チュートリアル・メソッドにおける相互作用の興味深い要素を、もっと大きな教室のなかに適用することだったのです。

 さらに、この教授法の目指すところについて、サンデル氏はこう続けます。

(p32より引用) 私が学生にこの教え方から学んでほしいと思っていることの一つは、講義を集中して聴くこと以外に、“真剣にその題材(material)に向き合い、自分自身のために深く考え、他者の議論に敬意を払ってしっかりと聴く”ということなのです。

 自己と他者との真摯な思索の往還ですね。

 この「往還」がまさに「対話」という形で行われるわけですが、サンデル氏が、プラトンの著作である対話篇に顕れる「ソクラテス」の方法と自らの技法との違いについて触れているくだりをご紹介します。

(p35より引用) ソクラテスの〔登場する〕「対話篇」を読んでみると、その質問がいかに攻撃的であったかがすぐに理解できます。ソクラテスは、時に答えを聞くことを目的に質問するのではなく、誘導するために質問していました。・・・この点では、私はソクラテスを真似たいとは思いません。私は、対話のなかで、ソクラテスよりも敬意を払って人の話を聞きたいですね。

といはいえ、もちろんサンデル氏も、講義の目的を意識しその論点を目指した質問を発しているわけですから、ある種「誘導的質問」があることは認めています。
 そういう方法をとることにより、「最高の教育とは、自分自身でいかに考えるかと学ぶことである」というメッセージを強く発信しているのです。

 さて、本書の感想ですが、前半のサンデル氏へのインタビュー形式によるサンデル流講義法の要諦や今日における哲学的思考の勧めを語っている章はとても興味深かったですね。
 ティーチング・フェローによるセッションとセットにしたハーバードの教育方式も大いに参考になりました。

 ただ、反面、小林氏による後半の「日本版白熱教室」へのチャレンジのくだりは、具体的で有益なTipsも紹介されてはいるのですが、少々冗長な感は否めませんでした。そのあたりちょっと残念です。



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