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いまは見えないものを見つけ出す 発想の視点力 (三谷 宏治)

比べる

 三谷宏治氏の著作としては、以前「観想力 空気はなぜ透明か」という本を読んだことがありますが、今回のテーマは「発想力」です。

 ボストン・コンサルティンググループやアクセンチュアで戦略コンサルタントとして活動した経歴の持主である著者が、本書で「発想力」を高めるための方法として示したのは、「比べる」「ハカる」「空間で観る」という3つの視点です。

 まずは、「比べる」
 三谷氏が薦める「比べる」際の視点は以下の4つです。

(p65より引用)
視点1 比べて、共通点でなく「矛盾」を探す・・・
視点2 広く遠く比べて、「不変」や「変化」を探す・・・
視点3 「例外」と比べて差を探る・・・
視点4 「周縁」「その他」と比べて差を探る

 視点1。大切なことは、「比べる」ことにより、共通点ではなく「差」「矛盾」を見つけることだと指摘しています。そのときの着眼の肝はこうです。

(p31より引用) ・大多数が同じ意見だが、一部異論や別意見=「矛盾」がある→深堀りする!

 視点2。ここでは、空間的にも時間的にも「広いレンジ」で比べることを勧めています。これにより、市場や技術の大きな地殻変動を発見するのです。

(p43より引用) 成功のメカニズムが強固で安定的、つまり変えづらいものであればあるほど、それが大きな失敗の理由になる。・・・
 大きく時系列に見て、変わったもの、変わらないものを見つけてみよう。そこに本質的な理由が埋まっている。

 ロングレンジで物事の変化を見わたすと、「イノベーションのジレンマ」で指摘されているような、市場を大きく押さえている企業がチャレンジャー企業に凌駕されるケースを確認することができます。そういった実際例として、本書では、キリンビールvsアサヒビールのシェア推移を採り上げています。

 視点3は、「例外」事象をヒントにしたイノベーション
 二次元グラフに事象をプロットすることはよくなされることですが、多くの場合「相関関係」を確かめることで止まってしまいます。たとえば、「売り場面積が増えれば売上も上がる」とか・・・。そこに止まっていては、当たり前のことを確認しただけです。新たな発見には至りません。さて、それではどうするか。
 この相関関係の傾向線から離れている事情に注目するのです。たとえば、同じ売り場面積なのにより多く売っている店舗に目をつけ、そこを深堀りしていくわけです。

(p49より引用) 相関を離れた例外的事象にこそ、例外的に優れたチャンスが(もしくは危機が)潜んでいるはずだ。
 真のジャンプを望むのならば、そこから逃げてはいけない。

 そして、最後、視点4は「その他に注目」

(p65より引用) 未来への扉は、既存の分類の中には決して存在しない。常に「その他」に潜んでいる。

 多くの事象を分析する際には必ず主要な分類項目に属さない「その他」の項をつくります。最初のうちは、この「その他」に分類されるものは少ないのが普通です。しかし、これが段々と増えていきます。ここに「未来への変化」の兆しが現れていると考えるわけです。

AHAでとどまらない

 「比べる」ことに加えて、三谷氏が勧めるもうひとつの発見のための視点が「ハカる」ということです。計る・測る・量る・・・。

 実際に対象を「ハカる」ことによりいろいろな事実が見えてきます。が、多くの企業が知りたいと求めているのは、顧客である「ヒトの心や行動」です。

(p111より引用) ヒトは「こうする」と話した通りには行動しない。・・・何をどうハカればヒトの心を読めるのだろうか。
 それには、言葉(インタビューやアンケート)に頼らず、行動そのものに尋ねることだ。・・・
 そういった行動調査の方法論として近年注目されているのが、・・・エスノグラフィー(Ethnography)という手法だ。人類学(Anthropology)の用語だが、一般に「行動観察調査」と呼ばれたりする。

 ヒトの本心は表面に表れる言葉では捉えられないというのです。口で言うことではなく、実際の「意思決定の内容」すなわち「行動」にそのヒトの真の価値観が現出していると考えるのです。

(p121より引用) ヒトの価値観をハカるには、その人の過去の資源配分とトレードオフ経験を探っていくことだ。過去(=行動実績)に向かえば、ヒトの真実が見える。

 確かに、たとえば「購買行動」を例にとってみても、「欲しい」「買いたい」と思うものと「実際買った」ものとは必ずしも一致しません。
 「思う」ことは将来的なニーズの表出ですから、これはこれで重要なマーケティングデータではあります。が、「今の購買契機」とは異なることをキチンと意識して理解しておくことは確かに重要です。

 さて、三谷氏本書の後半で「発見」を「発想」に結びつける方法を開陳していきます。

 三谷氏は、よいアイデアを出すためのプロセスは、ブレーンストーミング等で企図しているような「発散と収束」ではなく「発見・選択・探求・組合せ」だと主張しています。
 そのための具体的方法が「JAH法」です。

(p174より引用) 本質を見抜き、展開するステップが「JAH(軸値巾。Jiku Atai Haba)」法だ。「軸」は属性と言い換えてもいい。「値」は対象物がその属性の中でどういった状態に当たるのかであり、「巾」はその属性が取り得るのすべてを示す。

 たとえば、「関あじ」だと、軸は「魚種」、値は「アジ」、巾は「サバ・イサキ・カレイ・・・」となるのです。これにもうひとつの軸「水揚げ港」を加え「佐賀関」という値に「三崎漁港」等に巾を広げて組み合わせると、「関サバ」「三崎アジ」といったアイデアが生まれるとの発想法です。
 すなわち、ポイントはこういうことになります。

(p192より引用) 「JAH法」で本質=軸をつかんで分析。巾を組み合わせ新しいアイデアを創る

 私なりに解釈すると、三谷氏が説く「発想力」の要諦は「新たな組み合わせによる化学変化」にあるように思います。
 本書で紹介されている、その化学変化の可能性を拡大するためのヒントを最後に記しておきます。

(p202より引用) 他家受粉(自家受粉でなく)を促進するためにの組織行動として、ケリー氏は七つのやり方を挙げている。
①多様な経歴の人材を雇う
②多様な文化を取り入れる
③多様なプロジェクトを進める
④客人と会い学ぶ
⑤社内の発表会をする
⑥一流の論客によるノウハウ講演会を週一でやる
⑦議論が巻き起こる空間を作る

いずれももっともで、奇手ではない。実行あるのみだ。

 そうですね。すぐにでも、また自分だけでもできることがいくつもあります。まずは、そのうちのひとつでもいいので「実行」してみましょう。



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