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オンリーワンは創意である (町田 勝彦)

「選択と集中」が目指したもの

 著者の町田勝彦氏は、1998年から約9年間SHARPの社長を勤め、現在(注:2008年当時)は会長職にあります。
 その町田氏が、自らの経営を語った本です。

 事業経営において「選択と集中」ということがよく言われます。また、自社の強みを活かす「コアコンピタンス経営」というコンセプトもよく見かけます。

 SHARPにおける「選択と集中」の対象である具体的な「コアコンピタンス」は、「液晶技術」でした。
 なぜ「液晶」に集中したのか?町田氏にとっての「液晶」は「テレビ」での成功のための手段でした。さらにそれは、SHARPの致命的弱点である「ブランド力」強化のためのファーストステップだったのです。

(p20より引用) 私はテレビをやるために液晶を選んだ。・・・
 そして、テレビで成功しなければ、ブランド力は上がらない。ブランド力が上がらなければ、将来、企業として成り立ってゆかない。どんなに反対されても液晶をやりたかったのは、「家電の王様」であるテレビを制するためであった。

 「液晶技術」に加え、SHARPのブランド力を高めるための町田氏の戦術で大成功を収めたのは、「広告宣伝」でした。

(p70より引用) それまでの宣伝・販促活動は総花的で、新製品のデビュー広告が主流だった。・・・
 ブランド力向上が最重要課題である限り、宣伝活動も、それまでの「実売支援型」から、大転換をはからなくてはならない。・・・
 「選択と集中」は、どの場面においてもベクトルを合わせなくてはいけない。宣伝活動も例外ではない。・・・

 2000年の年明け、女優吉永小百合さんが登場したテレビスポットの効果は絶大だったといいます。確かに、今でも私の記憶に残っています。

 

他方、「選択」に漏れ切り捨てられた事業もありました。

(p71より引用) 「選択と集中」をおこなえば、どこかで血は流れる-それは覚悟のうえだった。

トップのメッセージの意味

 2000年の年明け、SHARPが大々的に実施したキャンペーンは、消費者に向けたSHARPの決意表明に止まらず、社内の技術者への町田氏からのメッセージでもありました。

(p33より引用) 「20世紀に、置いてゆくもの。21世紀に、持ってゆくもの。」
 実はこのキャッチコピーには、「うかうかしていたら、おまえたちもブラウン管といっしょに二十世紀に置いてくぞ」という、社員に向けた強いメッセージもこめられていた。

 経営における「ブランド力」の重要性を、特に技術者に対して納得させるのはなかなか大変だったようです。
 町田氏がとった方法は、「ブランド価値の数値化」でした。

(p74より引用) それまでのシャープ製品は、ブランド力が低いが故に、たとえ機能性能が優れていても、トップブランド力よりも、安く売られていた。1年間通してその売価差を積み上げてみると、衝撃的な結果が出た。・・・
 販売価格が10パーセント違えば収益はまったく違ってくる。生産過程では、採算性を高めるために、1円、2円という厳しいコストダウンが強いられている。ところが、ブランド力の差によって失われる収益は、まったく桁違いなものだった。・・・
 数字には説得力があった。このデータを見せつけられた社員は、企業ブランドの重要性を徐々に認識していくようになっていった。

 トップマネジメントの意志は、あらゆる方法ですべてのステークホルダーに伝えなくてはなりません。
 イメージ戦略もあれば、理詰めの説明もあります。そのすべてがトップの「ぶれない軸」に沿ったものでなくてはなりません。

トップの決意

 本書では、町田氏のみならず、創業者早川徳次氏をはじめ歴代の経営者の信念が紹介されています。
 本書のタイトルにある「オンリーワン」の追求は、SHARPに流れる創業者の意志でもあります。

(p27より引用) シャープには、創業者である早川徳次氏が提唱した「他人にマネされる商品をつくれ」という伝統と遺伝子が息づいている。ブラウン管がだめなら、いっそのこと他社にないものをつくろうじゃないかという逆転の発想だ。液晶につながる原点は、ここにあった。

 町田氏は、SHARPの「他社にマネされる独創的な商品をつくる」という「企業風土」は、経験豊かな「従業員」が受け継ぎ伝えたものだと考えています。

(p92より引用) 人が風土をつくり、風土によって再び人間が醸成され、独自性のある商品が生み出される-このサイクルこそが、「オンリーワン」を生む真髄だったのである。
 私は、このサイクルを、リストラによって断つことはできないと決心した。

 松下電器産業の松下幸之助氏もそうでしたが、SHARPもまた「人員削減」というリストラ策はとらなかったのです。

 厳しい経営環境は、何度もSHARPを襲いました。そのなかでの救世主として町田氏が挙げている商品が、カメラ内蔵携帯電話「SHシリーズ」でした。

(p173より引用) 「SHシリーズ」はまさに、私が目ざしているところの「デバイスと商品のスパイラル戦略」を見事に具現化した。「シャープの強みを活かした独創的な商品をつくる」というビジョンを、忠実に体現した理想的な商品だった。

 携帯電話機メーカとしては後発だったSHARPが、まさに「他社にマネされる」商品をいち早く作りあげ、マーケットに確固とした地位を築いた実例です。


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