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世紀末建築 (田原桂一)

 写真家田原桂一氏による「世紀末建築」をテーマとした6分冊の写真集です。

 全体の構成は、以下のとおりです。

1 アールヌーヴォー
2 モデルニスモと幻想の建築
3 リバティ様式と東方への夢
4 分離派運動の転回
5 アーツ・アンド・クラフツと田園都市
6 民俗文化と世紀末

 第一分冊「アールヌーヴォー」のまえがきにはこうあります。

(p6より引用) 現代建築が切り捨ててしまった、生命の直接的表現、生という部分に密接に関わった19世紀末建築。
生の直視から生まれてきたようなフォーム、それは常に手になじんだもの、あたかも愛撫することを知っている人の手によって造られたもののようだ。

 題材となった建築物としては、私でも知っている建築家オットー・ヴァークナー、アントニ・ガウディ、エクトール・ギマールといった巨匠の作品もあれば建築家不詳の作品もあります。

 単純な建築紹介の写真集ではないので、私のような芸術関係の素人にはちょっと不向きかもしれません。折角だったら、解説のページでもいいので、「建築物の全体像」の写真も加えてくれるとありがたいと思いました。

 しかしながら、想像どおり「世紀末建築」は重苦しい感じがしますね。
 かなり以前に、バルセロナやウィーンは訪れたことがあって、サグラダ・ファミリア教会やカサ・ミラ等、この本で紹介されているいくつかの超有名な建造物も見学しているのですが、この写真集にあるような「内装」はほとんど見る機会がありませんでした。

 複雑な造形とそれを浮き立たせる光と影。そこには、文字通り「世紀末」のおどろおどろしい空間が現出していて、私などの感覚では、人の生活空間という感じは全くしませんね。

 アール・ヌーヴォーは、あまりにもミーハーですが、アルフォンス・ミュシャのポスターやルネ・ラリックのガラス工芸といったあたりがやはり私にはしっくりくるようです。

 ただ、著者はこう語ります。

(p7より引用) 既に一世紀以上もたった今なお、我々に強烈なメッセージを投げかけてくるのは、この時期の建築がただの器としてや、ただの構築物としてではなく、限りない様々の人たちの手の跡や息づきの跡があるからだ。・・・そのアーティストや職人達の手の跡から立ちのぼるエゴが大きなエネルギーとなって、空間の装飾と言う領域を越え宙づりの状態で浮遊することなく、建築自体をしっかりと支えていた。この世紀末建築のムーブメントを理解していくには、決して建築の範囲だけでとらえるのではなく、文化を詰め込んだ空間として観ていかなければ理解し得ないことに気がついた。

 なるほど、「文化を詰め込んだ空間」という建築の捉え方は、とても納得感がありますね。



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