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電話交換手たちの太平洋戦争 (筒井 健二)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 8月、毎年この時期には「戦争」関係の本を1冊は読むようにしています。
 今回選んだのは、元NTT職員の方が書いたドキュメンタリーです。

 本書のプロローグには、こう記されています。

(p7より引用) 第二次世界大戦中、「死んでもブレスト(ヘッドホン式送受話器)をはずすな」と教えられた電話交換手たちが、電話交換室に荒れ狂う爆撃の火の粉をもろともせず、通信戦士として最後まで通信を守った姿は、関係者の心にいまだ消えることなく刻まれている。

 主人公はこの“電話交換手”たち。
 本書では、全国各地の彼女たちをめぐる11のエピソードが紹介されていますが、それらの中から印象に残ったくだりを書き留めておきます。

 昭和20年6月28日深夜から29日未明にかけて、舞台は岡山電話局です。

(p148より引用) 「空襲じゃが」
 幸子はそう呟くと、交換台の下に身を伏せた。無条件反射だった。
「どうもない。ただの空襲だ。仕事をつづけなさい」
 主事の山中ミヨコの声が交換室の中に響く。
「準備開始、完全武装せよ!」
 交換課長柳瀬真一の声が交換室内に響いた。
 完全武装-それは防護服に着替えることだった。幸子たちはすぐに交替でロッカーに行き、モンペに着替え、頭にはブレストの上に鉄兜を装着、顎のところで紐をしっかりと留め、その上に防空帽を被った。

 この空襲で岡山城天守閣は焼け落ち、岡山市内は一面焦土と化しました。犠牲になった方々は1,737名にのぼったとのことです。

 そして、もうひとつの悲劇。
 8月15日の無条件降伏を過ぎた20日、南樺太の真岡町はソ連軍の侵攻を受けていました。そして、真岡郵便局で電話交換業務に従事していた9名の交換手は、ソ連軍の猛攻の中、自決の道を選んだのでした。
 その遺体を確認した局長田中康助の言葉。

(p230より引用) 「私たちがこれまで彼女たちに教えてきたのは間違いだったかもしれない。逃げようと思えば逃げられた。国のため、天皇のため職務をまっとうせよという言葉は生きて初めて役立つもんなんだ」

 さて本書を読み通しての感想です。

 率直な印象をいえば、ドキュメンタリーというには取材の深さが今ひとつ、また、表現についても深みという点で物足りなさが残ります。
 ただ、国防の一翼を担う通信業務に携わっていた若い電話交換手にスポットライトをあて、彼女たちの業務遂行への使命感とそれを圧倒する戦争の悲劇とを扱ったテーマの着眼はユニークで、またとても重いものがあります。

 多角的な視点で改めて「戦争の罪悪」を考えるには、興味深い著作だと思います。



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