日本を揺るがせた怪物たち (田原 総一朗)
(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)
いつも行っている図書館の新刊書の棚で目についたので手に取ってみました。
田原総一朗さんの本は久しぶりです。
“怪物” の名を被って登場する人物は12人。
“政界の怪物たち”として、田中角栄・中曽根康弘・竹下登・小泉純一郎・岸信介、“財界の怪物たち”として、松下幸之助・本田宗一郎・盛田昭夫・稲盛和夫、最後に “文化人の怪物たち” として、大島渚・野坂昭如・石原慎太郎。確かにどなたも何れ劣らぬ「怪物たち」ですね。
どの人物を取り上げた章でも、興味深いエピソードが紹介されていますが、その中から私の目を惹いたものをいくつか書き留めておきます。
まずは、「政界のおしん」こと竹下登氏。
中曽根氏のあとを受け、長年の懸案であった「消費税導入」を実現した時の総理です。
次は、ホンダの本田宗一郎氏。
こちらは山ほど評伝や語録が出ているので改めてという感じがですが、このエピソードは知りませんでした。
ホンダの工場がある鈴鹿市、その新しい商工会議所ビルにホンダの看板が掲げられているのを見たとき本田氏が頭を下げながら会頭に言った言葉として紹介されたものです。
理不尽な権力には反発し、自らが権威になるのも徹底して嫌う、本田氏が終生貫いた姿勢の表れだと著者は指摘しています。
続いて、井深大氏と共にSONYを作った盛田昭夫氏。
初めてテープレコーダを開発しそれが国内では全く売れなかったときのまさに盛田氏らしい姿。
さて、本書を読み通しての感想ですが、正直なところ期待が大きすぎたようです。「怪物」といわれるような人物をひとり20ページほどのボリュームで語るのですから圧倒的に物足りなく感じるのは当然ですね。
それでもまだ “政界の怪物たち” の章では、田原氏ならではの付き合いから得られた面白いエピソードも記されているのですが、首をかしげるのは財界人の方を取り上げた章です。
特に稲盛和夫氏の「アメーバ経営」に触れているくだりとかは「???」満載です。周知のことですが、アメーバ経営の基本は「時間当たりの採算最大化」です。その指標を部門別管理の基本におき、「全員参加経営」を目指したものという点では稲盛イズムのひとつのシンボルであることはそのとおりなのですが、実態は氏が総括しているほど単純ではありません。
その成果として、
と語られるとちょっとがっかりしてしまいます。
このあたり、本書の軸は、著者が得意とする「素顔の人物像」にまつわる記述に特化すべきでしたね。
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