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「変わる!」思考術 (畑村 洋太郎)

マニュアルの弊害

 畑村洋太郎氏の著作は今までに何冊も読んでいるので、特に目新しさはありません。畑村氏の主張の復習といったところです。

 ただ、本書は、読者に対して、どちらかというと姿勢や行動の「変化」を求めるメッセージが中心で、氏の「失敗学」「決定学」「創造学」といった著作で見られる方法論・プロセス論的な解説のウェイトは非常に軽くなっています。
 たとえば、「機能・機構・構造」に関する説明もほんのさわり程度です。

(p29より引用) 独立した個になるには、こうしたゼロの状態から新しいものをつくるときの考え方が役に立つのではないかと考えています。それは簡単にいうと、機能、機構、構造ですべての事象を見る考え方です。・・・
 まずはじめの機能ですが、これはそのものが持つ働きのことだと考えてください。この機能はいくつかの機能要素からなり、それを実現するための機構がこれに対応するようにしてあります。そして、この機構をまとめたのが構造なのです。

 もちろん、畑村氏にとっては定説となっている「マニュアルの弊害」についての記述のように、コンパクトに氏の主張のエッセンスがまとめられているところもあります。

(p155より引用) マニュアル化の目的は、複雑化した作業を誰もが容易にできるようにすることにあります。しかし、その便利さこそが失敗を招く原因にもなっていることは見逃せません。
 このように完成された定式を使うと、その問題に対する深い理解がなくてもマニュアルを踏襲することで効率的に目的を達することができます。ただし、その実態は部分的な理解しかできない状態定式が利用されているので、表面的にはうまくいっていても裏では著しい潜在能力の低下が起こっているという問題が発生しているのです。

 マニュアルが完成され機能する「成熟期」に、まさにマニュアルによりプロセスの硬直化が起こり、次なる変化への対応不全を起こすという図式です。安定的な事業運営が、かえって変化の兆候を見逃しやすくする構造を内包しているわけです。安定は「衰退期」の入口です。

 そうであれば、常に変化へのアンテナの感度を上げておく工夫が不可欠になります。うまくいっている部門では気づきにくいでしょうから、あえて別の目でチェックする仕組みが必要かもしれません。

失敗を活かす「逆演算」

 畑村氏と言えば、「失敗学」の提唱者として有名です。
 畑村氏は、失敗の経験を活かすための準備作業として「知識化」というプロセスを重視しています。

(p157より引用) 新たにつくった問題解決のためのシナリオを本当の意味で使えるものするには、「知識化」という作業が必要になります。
 知識化というのは、ある場面でしか使えない状態の知識を一般化することで普遍的知識とすることだと考えてください。

 個別の失敗事例から独自の部分を削ぎ落とし、他の事例の際にも適用できるような「失敗原因のエッセンス」を抽出するのです。
 この作業は、失敗の原因を「なぜ、なぜ・・・」により深堀りし詰めていくというよりは、複数の事象を一段階高い俯瞰的な視座からとらえて、そこに共通に存在する根本原因を可視化して掴み出すイメージです。

 「失敗学」は、失敗を肯定的に意味づけます。
 「失敗」を薦めてはいるものの、ただ、失敗をすれば次には成功するというものではありません。「失敗」を活かすための「作業」が必要なのです。

 さて、本書では「変わる!」ということを提唱しているのですが、その「変わる」ための具体的な方法のうち、私の興味を惹いた考え方をひとつご紹介します。
 畑村氏が「逆演算の思考」と名付けているものです。

(p172より引用) 逆演算の思考というのは、見えている結果からある現象を考え、見えていない原因を探っていく能力だというふうに考えられます。これは一見すると誰にでもできる簡単なことのように見えますが、原因と結果というふたつの要素で見ているうちは難しく、なかなか真実が見えてきません。
 もともと原因には、「要因」と「からくり」(「特性」といってもいい)のふたつがあります。これはある要因をきっかけとして、それがからくり(特性)というブラックボックスの中を通ることで現象が起こっているという意味です。そうすると結果から要因を類推することができても、それを引き起こすからくりがどんなものかを理解しないことには、その人はその現象をすべて理解しているとはいえないことになるわけです。

 これは、「原因」と「結果」の間には何らかの「プロセス」があるということ、そして、その「プロセス」を解明し理解しない限り次なるアクションにはつながらないのだという(当たり前ですが)非常に大事な点を指摘しています。


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