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畑村式「わかる」技術(畑村 洋太郎)

「わかる」と「感じる」

(p3より引用) 創造や失敗について考えるときは、まず事象をしっかりと理解することから始める必要があります。「しっかりと理解する」ためには、まずは「わかる」ということの仕組みをきちんと知っておく必要があるし、さらに「わかる」仕組みを積極的に利用することが創造したり失敗を扱う上で大きなプラスになることがわかってきたのです。

と「はじめに」で記しているように、本書の前半では「わかる」とはどういうことかを説明しています。

 畑村氏によると、「わかる」とは「自分の頭の中にあるテンプレートとの一致」だと言います。

 また、理解の度合いや「わかる」に至る過程についても触れています。
 畑村氏の最近の著作に「直観でわかる数学」がありますが、「わかる」に至る方法としての「直感」と「直観」を、次のように対比させて解説しています。

(p65より引用) 直感を使っても思考のショートカットはできますが、そこで導き出される答えには「論理的な根拠」がありません。判断に際して、対象の要素や構造を一切見ていないのが「直観」とは決定的に異なる点なのです。・・・それは「わかる」からできるのではなく、たまたまそう「感じる」からその答えに至っているだけなのです。

 確かに辞書を引いて見ると、「直感」は「推理・考察などによらず、感覚的に物事を瞬時に感じとること」とあります。他方、「直観」の方は「推理を用いず、直接に対象を捉えること。一般には感性的知覚をいうが、直接的に全体および本質をつかむ認識能力としてプラトンの『イデアの直観』以来、哲学上さまざまな形で高い位置が与えられてきた。」とあり、まったく別物です。
 「直観でわかる・・・」という本のタイトルをみて、タイトルの意味するところを「わかったつもり」になって購入した人も多かったかもしれません。

 また、この本を通して言えることですが、解説に付随している「図」が、理解を進めるうえで非常に効果的なサポートをしていると思います。決して凝った図ではないのですが、シンプルにポイントを突いています。
 実際、畑村氏も、「絵を書くことの意味」という章を立て、「説明文」と互に補完しあって、「わかる」を助ける「図や絵」の活用を大いに推奨しています。

課題設定の「上り」と「下り」

 この本でも、「課題解決」より「課題設定」が重要だとの指摘がされています。
 この本で得られた「課題設定」のヒントは、「課題設定の『上り』と『下り』」です。

 通常の場合、課題を考える場合には、すぐ目の前にある事象をストレートに対象にして考えます。何かトラブルが起こったら、そのトラブル(だけに)注目して「問題点」「課題」を考えようとするのです。
 もう一歩進むと、事象を「より分析的」に捉えるようになります。トヨタ流の「なぜ」「なぜ」・・・の繰り返しによる「真の原因の追究」もそのひとつです。これは、課題を掘り返すという感じですから「下り」方向の「課題設定」ということにします。

 他方、「下り」があれば「上り」もあるのが世の道理です。

(p127より引用) 多くの場合、根本的な解決をする場合は、いま目の前にある問題と同じような種類、同じような脈絡、同じような性質をもっている問題は、全部一体で解決すべき課題であると考えます。するとそうした問題を共通項で括り上位概念に登ります。・・・すると、この大きな問題を課題として解決すれば、自分の目の前にある問題だけではなく、共通点をもった問題もすべて解決できることになります。

 「上位概念」とは、たとえば、建物でいった場合の「1階」に対する「2階」、会社組織でいえば「課」に対する「部」というものではありません。
 「上位概念」とは「抽象化」ということです。すなわち、「いくつかの事象の中に共通して含まれている普遍的な事柄を抽出する」ことです。

 ここで登場した「上位概念化」というコンセプトですが、これは先に紹介した同氏の「失敗を生かす仕事術」でも書かれています。
 同書では、「失敗を生かす『気づき』」という攻め口で登場していましたが、今回は、「課題設定」のための視座の工夫といった面から紹介されています。

 そして、ともかく、最も大切なことはこれらの探究に対する姿勢です。

(p127より引用) 共通点を見て、上位の概念に登っていく場合も、問題を分析してどんな要素と構造をしているかを見る場合も、まず大事なのは、具体的な問題があった場合、その問題がどんな構造をしているのか自分で分析してみて、そのうえで、自分の課題を決めることなのです。



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