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小説日本婦道記 (山本 周五郎)

(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)

 会社の同僚の方のお勧めでお借りして読んでみました。こういう形で手に取る本は、通常の私の視野の外にあるものなので、楽しみも増しますね。

 1958年出版の本ですが、タイトルの「婦道」という言葉は目新しく印象的です。
 一つひとつの物語は、それぞれ閑かでありながらも、抑制されたサスペンスのような緊迫感があります。
 作者が舞台としている封建的な武家社会の価値観や、それに応える主人公らの心理・振る舞いには、必ずしも共感できるものではないのですが、とはいえ、時に自らを省みて心に響くくだりがあるのも事実です。

(p22より引用) あのひどく荒れた手に触れたとき、藤右衛門はまったく意外だった、皮膚の荒れたその手と、彼の印象にある妻とはどうしても似あわず、自分のまったく知らなかった一面にはじめて触れたような気持だった。

 冒頭の短編「松の花」のなかで、藤右衛門は自分の不明を恥じてこう呟きました。

(p23より引用) 「なんという迂闊なことだ。なんという愚かな眼だ。自分のすぐそばにいる妻がどんな人間であるかさえ己は知らずにいた」

 実は、私、山本周五郎氏の作品を読むのはこれが初めてでした。もちろん、有名な時代物の作家であり、大河ドラマ「樅ノ木は残った」や映画「赤ひげ」の原作者であることは周知のことではありますが、こうやって氏の代表作に触れてみると、その細やかな舞台描写の表現や抑揚が効いた台詞回し等々、ストーリーテラーとしての語り口の秀逸さを強く感じますね。

 今更ながらではありますが、いろいろな意味でとても新鮮なインパクトを受けた作品でした。



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