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下世話の作法 (ビートたけし)

 「ビートたけし」という芸人でもあり、「北野武」という映画監督でもあるたけしさんのエッセイです。

 芸能関係の方の本はあまり読みません。エッセイというジャンルでは、高倉健氏による「旅の途中で」以来でしょうか。

 本書で、たけしさんは、「品」とか「粋」とかについて、自身の経験を踏まえた考え方を開陳していきます。
 たけしさんの考える「品」は、いたずらに「夢を追わない」「身の丈にあった」ところにあります。

(p76より引用) 自分の範囲っていうものをしっかり考えられれば、下品にならない。自分のできる範囲、自分の能力、それから自分の生きている時代を考えて、他人に迷惑をかけることなく、目立つこともなく普通に生きていく。それが人間的にいちばんいい方法で、品がいい生き方なんだよ。

 「他人に迷惑をかけない」「礼儀をわきまえる」といった普段の心遣いが大事だというのです。

(p16より引用) つねに相手を思いやる、人に気を使うという日本特有の精神構造をもう一回持たせないと、日本人はかっこよくならないと思う。

 さらに「粋」となると、ただ「品」が良いだけでなく「かっこよさ」が加わります。

(p93より引用) 俺なりに言うと、「粋」っていうのは「常識をわきまえたうえでの、もうひとつ上の生き方」なの。・・・まずは他人に気を使えることが大事になってくるんじゃないかと思ってる。気遣いができる人って、すごくかっこいいじゃない。

 この「気遣いの仕方」がポイントです。そこで登場するのが、あの高倉健さんです。高倉健さんの周りの人への気遣いの凄さは、常に「高倉健」を演じきっている姿だとたけしさんの目には映ります。

 さらにたけしさんの師匠の深見千三郎さんの「粋」な台詞も紹介されています。

(p110より引用) 姿を消すから粋であり、気遣いの押し売りをしないから粋なんだ。よく言われたもん。「相手にお礼をさせるなよ、悪いだろう」って。

 これには、シビレますね。

 本書の「あとがきにかえて」で、たけしさんの詩が載っています。

(p230より引用) 日本文化はもっと高尚で、精神的である
人の喜ぶ姿を見て、それを自分の喜びと
けっして人にそれを気づかせない事
それがジャパニーズの世界に誇る
時代遅れの、マヌケな、男の精神
俺はそれが好き

 さて、「品」「粋」に続いて、たけしさんの話題は「作法」に広がります。

(p185より引用) 作法は自然を守って共存して生きてきた人たちの動きにつながっている。だからわれわれ全員、共通のものなんだ。金持ちだろうが、貧乏人だろうが関係ない。

 どんな世界にも「作法」があり、作法が「品格」につながるのです。辛口で知られるたけしさんですが、「悪口」を言うにも作法があるといいます。

(p172より引用) 作法としての「言わない約束」って本当は難しくて、相手が何を考えているのか、どういう状態にあるのか、その人に対してこっちに知識がないと、相当失礼なことを言っている場合もある。・・・
 作法は一見、簡単な振舞いなんだけど、その作法を身につけるためには莫大な知識がいる。

 この本でも、高倉健さん・渡哲也さんら実名が出ている方々は、すべて「褒め言葉」の対象ですね。

 最後に、たけしさんらしいフレーズをひとつ。

(p25より引用) 昔の人は自分が貧乏なことを認めるし、格差も認めるけど、精神は貧乏じゃなかった。貧乏人にも誇りがあった。・・・
 今の人は踏みとどまらないからね。・・・今のやつらの開き直りは単なる詭弁でね、精神的な誇りは一切ない。そんな時代になってしまったんだ。



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