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スティーブ・ジョブズⅡ (ウォルター・アイザックソン)
(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)
Think Different
以前読んだ「スティーブ・ジョブズⅠ」に続くジョブズ伝の後半です。
1997年1月、ジョブズがアップルに戻ってきました。非公式・非常勤のアドバイザーという立場です。
スカリー、スピンドラーに続き、当時のCEOはギル・アメリオ。彼はジョブズのファンではありませんでした。ジョブズはアメリオを退散させます。その際にも、例のジョブズの人間性が顔を出します。
(p50より引用) 「彼はそれが自分の利益になるからうそをつくのではなく、そういう人間だからうそをつくのだ」という、ヘルムート・ゾンネンフェルトがヘンリー・キッシンジャーについて語った有名な言葉がある。ジョブズの場合も、そういう人間だから、そのほうがいいと思えば、思い違いをするようにしむけたりいろいろ隠したりする。だが、逆に残酷なほど正直になり、ふつうならオブラートにくるんだり言わずにおいたりする真実を突きつける。うそをつくのも真実を語るのも、通常のルールは自分に適用されないというニーチェ的な姿勢から派生しているものなのだ。
ジョブズのアップル建て直しのポイントは「製品」でした。そしてまた、アップルという「ブランド」の再構築でもありました。
「シンク・ディファレント」。
新たなプロモーションのキャッチコピーです。その心は、こういった印象的なメッセージとともに拡散されました。
(p75より引用) クレージーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち。彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。・・・しかし、彼らを無視することは誰にもできない。なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。彼らは人間を前進させた。彼らはクレージーだと言われるが、私たちは天才だと思う。自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから。
アップルのブランド力は強烈です。私自身の経験でもありますが、10数年前、PCがwindows版に塗り込められているころ、やはりMacユーザには強いこだわりと独特のポリシーを感じましたね。
(p79より引用) ジョブズは、「どのコンピュータを選ぶか」という行為だけで、ユーザーが自らを反企業的でクリエイティブ、イノベーティブな反逆者だとみなし、主張できるようなブランドを作ったのだ。
まさにこれは「ライフスタイルブランド」とも言うべきものです。
このブランドは「製品」のデザインという媒体で顧客に具現化されます。ジョブズはデザインにこだわり抜きました。
このデザインに関するジョブズのパートナーはジョニー・アイブ。彼のデザインスタジオは、ジョブズにとっては、デザイン作り以上の意味がありました。ジョニーの言葉です。
(p99より引用) ここなら・・・アップルが検討中の製品すべてが見わたせます。そうやってスティーブは、会社がどこにエネルギーを集中しているのか、また、どことどこがどうつながっているのかを把握するのです。そして、「あっちが伸びている状態でこっちをやる意味はあるのかい?」などと聞くわけです。彼はいろいろなものを関係性で把握するのですが、会社が大きくなるとそうするのはとても難しくなります。ここのテーブルにモデルを並べて一覧することで、スティーブは3年先の未来を見るのです。
「集中」「知り捨て」「シンプル」・・・、ジョブズは、俯瞰的な視点から極めて明確な方向性を示していきました。
WALKMANを超えて
ジョブズが返り咲き、新たな未来を見据えたアップルは、コンピュータをコアにした音楽生態系ビジネスに乗り出していきます。
その過程は、しばしばソニーと比較されます。本書でも、そのあたりの様子については詳しく語られています。
ここで登場するイオヴァインはユニバーサル傘下のレーベルのキーマンです。
(p180より引用) 「どうしてソニーがだめだったのか、私にはまったく理解できません。史上有数の失策でしょう」
とイオヴァインはいまでも首をかしげる。
「アップルの場合、社内で協力しない部門は首が飛びます。でもソニーは社内で部門同士が争っていました」
実際、ソニーはいろいろな意味でアップルの逆だった。かっこいい製品を作る消費者家電部門もあれば、ボブ・ディランなど人気アーティストを抱える音楽部門もあった。しかし、各部門が自分たちの利益を守ろうとするため、会社全体でエンドツーエンドのサービスを作れずにいた。
アップルとソニーとは、そもそもビジネススタイルが全く異なっていました。正確には、創業時とは異なる「当時の」ソニーとはといったほうがいいかもしれません。
(p193より引用) ふつう会社はそういうものだが、ソニーは共食いを心配した。デジタル化した楽曲を簡単に供給できる音楽プレーヤーと音楽サービスを作ると、レコード部門の売り上げにマイナスの影響が出るのではないかと心配したのだ。
これに対してジョブズは、“共食いを怖れるな”を事業の基本原則としている。
「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだからね」
だから、iPoneを出せばiPodの売り上げが落ちるかもしれない、iPadを出せばノートブックの売り上げが落ちるかもしれないと思っても、ためらわずに突き進むのだ。
「競合に対抗するには、自ら競合を生み出すこと」、意識的な自己淘汰は、マーケットをリードし続けるための一つのセオリーですが、多くの企業では、ここに「成功体験の壁」が立ちはだかります。
この壁を乗り越えるには、適切なタイミングで過去を切り捨てる英断が必要になります。成功している部門が自らの手でその決断を下すのは極めて難しいでしょう。ここにおいて、強烈なリーダシップの有無が、企業の盛衰の明暗を分ける分水嶺になるのです。
個性的なリーダ・・・、逆説的な言い方になりますが、それらの人々の中では不思議なほど似通った共通項が見られます。
(p424より引用) 「顧客が望むモノを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、なにを望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。・・・欲しいモノを見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんてわからないんだ。だから僕は市場調査に頼らない。歴史のページにまだ書かれていないことを読み取るのが僕らの仕事なんだ。
ジョブズはこう語っていますが、これはまさに本田宗一郎氏の言葉と全く同じです。そして、ジョブズはそれを見事に成し遂げました。プロダクトだけでなく、新たなライフスタイルをも先導し創造したのでした。
すでに病に侵されてしたジョブズがトルコを旅行していたとき、こう閃いたのだそうです。
(p370より引用) 若い連中にとって世界はどこも同じ、そういうことなんだ。僕らが作る製品も、トルコ電話なんてものもなければ、ほかの地域と違ってトルコの若者だけが欲しがる音楽プレイヤーなんてものもない。いま、世界はひとつなんだ。
ジョブズは、「ジョブズ・ウェイ」を貫き通しました。
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