機械との競争 (エリク・ブリニョルフソン)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
アメリカを中心に話題になっている本です。
「雇用問題」をテクノロジーの進化との関わりという文脈の中で議論しています。
産業革命以降の世界経済の動きは、世界恐慌等の谷間はあるにしても、基本的には拡大基調でした。それに併せて雇用も順調に伸びていきました。
これに対して今日の「デジタル革命」「IT革命」は、従来とは異なる影響を経済に与えています。
指数関数的に進むコンピュータの進歩は、急速に従来型業務を効率化し雇用の減少をもたらします。そして、ITにより創出される新ビジネスが生み出す雇用の増加を凌駕し、「雇用総量を減少させる」というのです。
このあたりの本書の主張のエッセンスは、本文よりも巻末の「解説」の方が明瞭です。
こういった状況に対して、著者たちは最終的には楽観的です。とはいえ、彼らの示す処方箋の解説は極めてプアです。
「教育」「起業家精神」「投資」「法規制・税制」の観点から19のアクションを示しているのですが、それらの政策としての連関は希薄で、その説得力は乏しいと言わざる得ません。
テクノロジー失業を回避するためのイノベーションを生むキーファクタとして“メタアイデア”というコンセプトを説明しているくだりですが、これも具体的根拠の薄い希望的観測を語っているに過ぎません。
では“メタアイデア”はどうやって創造しているかという重要な点については、「インターネットによる集合知への期待」を示すに止まっています。結論はそのとおりになるのかもしれませんが、この程度の記述で終わってしまっては素人の感想文のレベルでしょう。
MITの研究チームのレポートとのことですが、(装丁が奇抜な割には)全体を通して論考が甘く、正直なところ物足りなさが大いに残る内容でした。
(注:本書は今(2023年)から10年ほど前に書かれた著作ですが、今日では、本書の指摘(IT革命による雇用総量の減少)に加え、AI(人工知能)の発達による雇用の代替化・変容という事象も発生しています)
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