天平の女帝 孝謙称徳 (玉岡 かおる)
(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)
ちょっと前、新聞の書評欄で出口治朗氏が紹介していたので興味を抱いて手に取った本です。
タイトルからは、ヒロインは女性として初の天皇となった孝謙天皇のように見えますが、物語の主役は和気広虫と吉備由利という二人の女官です。
“藤の蔓”とは、藤原氏の傘の下にある者という暗喩でしょうか。
二人の女官が傅いた帝は聖武天皇・光明皇后を父母に持つ孝謙天皇でした。その後上皇となった孝謙上皇は、僧道鏡を重用するようになります。このころから当時のもう一人の有力者であった藤原仲麻呂との勢力関係が危うくなり、孝謙上皇は髪を下し仏門に入ることによって帝としての政を行なう強い決意を示しました。
その後称徳天皇として復位した女帝ですが、ほどなく行幸の折から体調を壊し崩御されました。そして、称徳天皇の治世は僧道鏡との間の醜聞とともに語られるようになっていったのです。
称徳天皇崩御の裏には、男性天皇に娘を嫁すことにより政治の実権を掌握し続けたいという摂関家藤原氏の男たちの深謀遠慮があったのです。
そして、称徳天皇以降、江戸時代初期109代明正天皇に至るまでおよそ850年間、日本には女帝は生まれませんでした。
さて、小説なのでストーリーを紹介することはできるだけ避けることとして、本書を読み通しての感想を少々。
現代の読書家のひとり出口治朗氏のお薦めということで読んでみたのですが、正直なところちょっと期待外れといった印象ですね。
称徳天皇崩御の謎解き的な要素が読者を物語に引き込む導線だったのでしょうが、そのあたりの脚色に今一つ感があります。
当時、孝謙・称徳天皇を取り巻く人物としては、橘諸兄・藤原仲麻呂・道鏡・吉備真備等々強いキャラクターの持主がいるのですから、彼らの活かし方次第でもう少しエッジの効いた歴史エンターテイメントに仕立てることができたのではと思いますね。
とはいえ、敢えてそういったビッグネームに頼らず、和気広虫・藤原百川らを働かせたところが “玄人仕事” なのかもしれません・・・。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?