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環境問題はなぜウソがまかり通るのか (武田 邦彦)

 少々過激なタイトルの本です。
 ちょっと話題になっているということだったので、手にとってみました。

 著者の武田邦彦氏の主張は、環境問題を取り巻く情報の誤謬を指摘するところに始まり、誤報に至る動機や背景、さらにはその根本原因としての現代人論にも及びます。
 動機や背景についての主張内容については、さもあらんと感じるところもありますが、反論も出るところだと思います。

 事実としての「情報の誤謬」については、たとえば「ペットボトルのリサイクル」を材料に、武田氏は以下のように結論づけています。

(p50より引用) 環境という名の下に日本人全体が非効率なやり方を正しいリサイクルだと思い込んでいることになる。
 つまり、産業廃棄物も家庭から出る廃棄物もごみはごみ、分別しても資源にはならない。諦めて焼却するのがむしろ合理的、効率的な方法なのである。

 武田氏は、安易なリサイクル推進運動に疑問を投げかけています。
 氏の検証によると、「ペットボトルを100%リサイクルできたとしても、日本に1年間で2.5億トン輸入される石油のうち1000分の1相当の消費量が減るだけ」なのだそうです。

 これらの数字の当否はともかくとしても、本書で展開される論考の基本的なスキームには首肯できるところがあります。
 それは、「木を見て森を見ず」的な論を排斥し、前後のプロセスも含めた俯瞰的視点を示している点です。

 ペットボトルのリサイクルの目的は、「ごみの増加抑制」もあれば「石油資源の節約」もあるでしょう。武田氏の主張は、「リサイクルしようとペットボトルの使用量の増加の方が圧倒的に大きい」「石油資源の節約の効果は極小、むしろ石油化学工業の効率化等の方が根本的な対策のはず」というのです。すなわち、ペットボトルのリサイクルは、それにかかるすべてのコストを考えると、そもそもの「環境保護」という目的とは逆行するものだとの主張です。

 その他「水素自動車」の議論も面白いものがありました。
 「水素」自体はクリーンなエネルギー源であることは間違いありません。しかしながら、地球上のどこに「水素」があるのでしょう。
 地球には大海がある、水は無尽蔵に近い資源だ、水は「水素と酸素の化合物」なので、水を原料にすると「水素」はいくらでも得られる・・・といった説明がまことしやかにされていますが、これに対して武田氏は以下のように指摘します。
 水を分解して「水素」を作り出す方法は何か? 電気分解するにもエネルギーが必要だ、そのエネルギーはどうやって得るのか? 結局は今問題になっている貴重な資源を使うことになるだろう・・・

 「森林保護」についても、こんな感じです。
 森林は、二酸化炭素を吸収してくれるので地球温暖化防止に貢献していると言われるが本当か? 木もいつかは枯れる、枯れて腐ると二酸化炭素が発生するのだ。

 武田氏が本書で提示した「環境問題の誤謬」の実体すべてが正しいかどうかは、私の知識では分かりません。この本だけで判断するのはそれこそ俯瞰的な見方を否定することになります。
 武田氏の主張もひとつの考え方だと押さえたうえで、本書に対する反論の書があれば、そちらも読んで考えたいと思います。


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