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スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン ― 人々を惹きつける18の法則 (カーマイン・ガロ)

 アップルCEOのスティーブ・ジョブズは、その経営手腕もさることながらプレゼンテーションの見事さでも有名です。
 もちろん、そもそも彼が紹介するプロダクト自体とても魅力的なのですが、それを、より効果的・印象的に伝える彼のコミュニケーション能力によるところも非常に大きいのです。

 本書は、ジョブズによる数々の具体的プレゼンテーションを取り上げて、その成功の秘訣を紹介しています。その中には、ジョブズならではの工夫もあれば、普遍的な原則も含まれています。

 まずは、普遍的なものからいくつか覚えに書き留めておきます。

 一つ目は、「プレゼンテーションは聞き手のため」という姿勢についてです。

(p48より引用) プレゼンテーションを準備しているとき忘れてはならないことがある。プレゼンテーションの対象が自分ではなく、聴衆であることだ。聞き手は「なぜ気にかける必要があるのか」と必ず自問している。まずこの問いかけに答えてあげれば、聴衆を話に引き込むことができる。

 これはあまりにも当然のことですが、実際これを満たしているプレゼンテーションは数少ないですね。
 話し手は、つい、自分の伝えたいことを自分なりのストーリーで、それこそ一方的に話してしまうのが現実です。その結果、「それで、結局、私にとって何がいいの?」という疑問が、聞き手のフラストレーションとして残ってしまうのです。

 二つ目は、「ヘッドライン」
 一言で惹きつけ、あらゆるプロモーションを通して徹底的に浸透させるフレーズの重要性の指摘です。その典型的な成功例が、ジョブズ自身が考えたといわれている2001年10月の「ipod」発売時のヘッドラインでした。

 「ipod。1000曲をポケットに。(1,000 Songs in Your Pocket.)」

(p92より引用) アップルのヘッドラインが記憶によく残るのは、3つの条件を満足しているからだ。簡潔(英語27文字,日本語訳で12文字)、具体的(1000曲)、そして、利用者にとってのメリットがわかる(ポケットに入れて音楽を持ち歩ける)

 他方、ジョブズならではといったプレゼンテーションのテクニックもあります。
 たとえば、「敵役」を登場させて、自らの製品の素晴らしさ・革新性を際立たせる演出。

(p154より引用) 悪玉を創りだし、正義の味方がもたらすメリットを売り込むという技術、その能力こそ、スティーブ・ジョブズのメッセージ力の源泉であり、彼のプレゼンテーションやインタビューで必ずといっていいほど見られるものである。

 もちろん「正義の味方」は「アップル」です。悪玉は・・・、以前は、たとえば「ビッグ・ブルー(IBM)」、そして、最近(注:2011年:本稿初投稿当時)は「マイクロソフト」ですね。悪玉が支配する市場に対して、正義の味方が挑みます。もちろん、悪玉に不満を抱いている利用者のためにです。

(p134より引用) 「なぜこれが必要なのか」-この一文だけで敵役が導入できる。ジョブズはこの質問からスタートして業界の現状を語り、・・・解決策を提示するという次の段階のお膳立てをしてしまう。

 また、ジョブズならではの機転の利いた言い回しもあります。
 その中でも特に秀逸だと感じたのが、「シェア5%の表し方」でした。
 以前のアップルのPC市場でのシェアは非常にわずかなものでした。今でもそれほど高いわけではありません。そういう現状を、ジョブズは見事に逆手にとって、アップルブランドの価値を高めていくのです。

(p193より引用) 「アップルの市場シェアは自動車業界におけるBMWやメルセデスよりも大きい。だからといって、BMWやメルセデスが消える運命にあると思う人はいないし、シェアが小さくて不利だと思う人もいない。それどころか、どちらも人気の製品だし人気のブランドだ」

 うまいもんです。こういわれると、むしろ「5%」である方が魅力的に感じてしまいます。

 本書は、ジョブズのプレゼンテーションが卓越して魅力的に感じられる、その秘訣を紹介している本ですが、そのメインテーマ以外でも興味深い気づきが数多く得られました。

 その中からひとつ、最後に書き留めておきます。
 アップルのデザインを担当しているジョニー・アイブへのインタビューから、「個性的デザイン」について語ったくだりです。

(p163より引用) 「おもしろいのは、そのシンプルさから、やりすぎというくらいのシンプルさから、そのシンプルさの表現から、とても個性的な製品が生まれるという点です。・・・」

 初代ipodは、ジョブズのシンプルさへのこだわりが生み出したのです。



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