見出し画像

世界遺産の建築を見よう カラー版 (古市 徹雄)

 本書は、世界遺産の中から、西洋建築とイスラム建築の代表的なものを紹介したガイドブックです。(巻末には、日本の世界遺産建築が3つ付記されています。)

 豊富なカラー写真と建物の平面図や空間構成図等、各種の図版が豊富に掲載されていてパラパラみるだけでも楽しめます。そもそも「岩波ジュニア新書」なので解説も分かりやすく、私のような初心者にはありがたいものです。

 本書では、西洋建築やイスラム建築の中から教会や寺院が比較的多く紹介されています。それらの建築物の構成は「シンメトリー」を基本にしています。「タージ・マハル」などは庭園も含め徹底した見事なシンメトリー構成です。

 他方、その対極にはガウディの「カサ・ミラ」などが位置づけられるのでしょう。もう30年以上前になりますがバルセロナを訪れた際、実物を見たことを思い出しました。グエル公園やサグラダ・ファミリア・・・、あの色づかいと独特の曲面のインパクトは強烈です。ガウディは異才の中でも図抜けています。

 さて、日本の代表的建築物ですが、本書では、「法隆寺」「東大寺」「竜安寺」が紹介されています。
 その中の「法隆寺」についての解説に「シンメトリー」に対する日本の姿勢が解説されています。

(p172より引用) 日本人には軸線やシンメトリーを嫌う習性があるようで、長い間に培われた民族の好みとしか説明のしようがありません。・・・法隆寺は左右非対称と言いましたが、正面から見ると、塔と金堂の左右のバランスが実によく取れています。塔は細身で高く、金堂は幅があって低くと、ヴォリューム的にバランスが取れているからです。これこそ日本人の美学です。

 確かに、均等ではないバランスの取り方は日本的かもしれません。この感覚は「書道」や「華道」にも見られますね。

 最後に、本書を読んでの気づきは、「古代エジプトのニューディール」でした。

(p4より引用) ナイル河の氾濫は上流から多量の肥沃な土を運び、豊かな農業をもたらしました。しかし雨季の間は農作業ができません。そこでこの期間に巨大なピラミッドを築いて、雇用の機会を王が与えたというのが最近支持されている考え方です。かつてアメリカで大恐慌の時に実施された、雇用を増やすためのニューディール政策に見られるような巨大公共事業だったのです。絵や落書きには、奴隷とは思えない、生き生きとして自由な当時の建設労働者の生活を想像させるものがたくさん発見されています。

 どこまで考古学的な裏付けがあるのか気になりますが、面白い着眼ですね。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?