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スティーブ・ジョブズ I (ウォルター・アイザックソン)

 スティーブ・ジョブズが亡くなった直後に発刊された彼の評伝です。
 とても充実した内容なので興味をもったところはそれこそ山のようにあるのですが、その中から特にいくつかを覚えとして書き留めておきます。

 1977年1月3日、アップルコンピュータは設立されました。立ち上げたのはスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック、そしてマイク・マークラでした。
 マークラは出資者であると同時にジョブズのマーケティングの教師でもありました。マークラが記した「アップルのマーケティング哲学」と題したペーパーから。

(p137より引用) そのペーパーには、3つのポイントが書かれていた。
 1番目は〈共感〉だった-「アップルは、他の企業よりも顧客のニーズを深く理解する」。顧客の想いに寄りそうのだ。
 2番目は〈フォーカス〉-「やると決めたことを上手におこなうためには、重要度の低い物事はすべて切らなければならない」
 3番目に挙げられた同じく重要な原理は、〈印象〉だった。わかりにくいかもしれないが、これは、会社や製品が発するさまざまな信号がその評価を形作ることを指している。

 この教えは、その後ジョブズが産み出した数々の製品にまさに体現されています。
 その中の「印象」とういう点では、ジョブズは常々「洗練を突きつめると簡潔になる」と語っていました。

(p206より引用) デザインをシンプルにする根本は、製品を直感的に使いやすくすることだとジョブズは考えた。

 ジョブズの細部へのこだわりは徹底していました。たとえばMacintosh。そもそも筐体自体、分解しづらく作っているのですが、その内側の仕上げにも完璧を要求したといいます。
 根強いアップルファンを生み出している“無用なものを削ぎ落としたスマートなデザイン”は、まさにアップルらしさの具現化ですね。

 さて、数あるジョブズ伝説の中で、彼の特殊性を表す特別なフレーズが生まれています。その中のひとつに「現実歪曲フィールド」というものがあります。
 それがどんなものなのか、マックチームに加わったハーツフェルドの言葉です。

(p194より引用) 「カリスマ的な物言い、不屈の意志、目的のためならどのような事実でもねじ曲げる熱意が複雑に絡みあったもの-それが現実歪曲フィールドです」

 この力から逃れることは困難です。「ジョブズはよくうそをつく」と言われますが、それもこの現実歪曲フォールドの現出形態のひとつのようです。

(p195より引用) 「スティーブは自分自身さえだましてしまいます。そうして自ら信じ、血肉としているからこそ、ほかの人たちを自分のビジョンに引きずり込めるのです」

 この「現実歪曲フィールド」現出の背景には、ジョブズの “世間的なルールに従う必要はない、自分は特別な人間だ” との信念があります。

 そしてそれは、極端な二分化思考にもつながります。ジョブズの周りのメンバは「賢人」か「ばか」、その仕事ぶりは「最高」か「最低」に色分けされました。それが幸せな人もいれば、不幸な人もいました。
 ジョブズは、広く万人にとって“一緒に仕事をしたい”というタイプではありませんでした。



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