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進化するグーグル (林 信行)

 会社の共用文庫に寄贈されていたので読んでみました。
 発行は2009年1月ですから、この手の業界を扱ったものとしては、かなり前の内容ということになります。とはいえ、「グーグルという企業」のアウトラインをザクッと把握するには、コンパクトで手ごろな本だと思います。

 本書で紹介されている内容は、これといって特に目新しいものはありませんが、復習までにいくつか覚えを書き記しておきます。

 まずは、「グーグルのミッション」です。

(p20より引用) グーグルは、・・・幅広い事業を手がけている。一見すると支離滅裂で、およそまとまりがない事業内容だが、じつはすべてのサービスは、ある1つのシンプルなルールに基づいている。「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」
-これは創業以来変わることがない。
 これが、グーグル社の使命を表した「ミッション・ステートメント」であり、2万人以上の従業員を結束させる経典となっている。

 もうひとつ、著者が考える「グーグルが目指しているもの」について。

(p129より引用) 21世紀のIT革命は、グーグルがインターネット上に点在する人類の叡智を整理、集約、OS化し、世界中のIT企業がグーグルの提供する技術基盤の上でサービスを構築していく。これこそがグーグルが本当に目指していることだろう。

 グーグルが提供するサービスの多くはAPIが公開されていて、それにより競合企業は、「きわめて容易」にグーグルが開発したサービス基盤を利用し、新たなサービスを提供することが可能となります。

 この戦略は、類似サービスの市場投入を促進するという点では、近視眼的には競合企業を利することになります。が、他方、グーグルが提供するAPIを利用している限り、そのサービスはグーグルのサービスを超えることはできません。結局のところ、APIの公開は、「競合企業をグーグル自らの手の中に取り込んでしまう」、すなわち俯瞰的視点でみると、これから拓かれる新市場を「グーグル依存」に導くための極めて効果的な戦略だと言えます。
 著者も指摘していますが、「グーグルを基盤とした生態系」の構築が進んでいるのです。

 本書で紹介されているグーグルを中心とした動きは、IT自由主義・技術性善説といった思想をその底流に感じます。
 それ自体は否定されるものではありませんが、他面、人を基点にした人文科学・哲学的なアンチテーゼも社会潮流のバランス保持という観点から意識して議論されるべきだとも思いました。



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