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「質問力」の教科書 (御厨 貴)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 著者の御厨貴氏は政治史学者ですが、オーラル・ヒストリーの専門家でもあります。その著者が「質問力」について語った本です。

 具体的な内容は、インタビューの質を向上させるためのTips集といった趣きです。
 たとえば、インタビューにあたっての「事前準備」について。

(p63より引用) 周到な準備は質問力に小さなフレームをはめ込むことになりかねない。

 もちろん事前に相手のこと(人柄・経歴・業績等)を調べておくことは大切です。ただ、それによって「相手のイメージ」を必要以上に固めてしまうことはインタビューに無用の予見・先入観を与えることになり、新鮮な発見を妨げる怖れがあるとの指摘です。

 もうひとつ、こちらからの質問に対して、相手が「無言」になった時の対応。
 私のような素人は、「無言の間」に耐えられなくなって、つい、今までの話の要約を付言したり、「こういうことでしょうか」と相手の回答を促すようなフォローをしたりしてしまいます。

(p78より引用) 私は会話や取材のなかでの無言の間は、一種の神経戦のようなものだと思っている。質問者側がどれだけその沈黙に耐えられたかで、結果のよし悪しが決まる。楽になりたいからといって水面から顔を上げてしまっては負けである。

 最後まで、相手からの言葉を引き出す努力が重要だとの考えです。

 さて、本書ですが、マスメディア等への露出の多い御厨氏の著作ということで、その内容についてはかなり期待していました。が、読んでみてかなり想像していたものと大きなギャップがありましたね。

(p169より引用) 人間はデジタル的に0か1かで割り切れない生き物である。イエスとノーの間にグレーゾーンがあるのが人間の会話であり、そのグレーを掴む感性こそを磨くべきなのだ。質問力が最終的に必要とするのはこのような感性なのである。

 この著者のコメントはそのとおりだと思います。
 ただ、私も含めて読者は、まさにそこのところ、「感性の磨き方」を掘り下げて詳説して欲しいと考えているのです。
 この “尻切れトンボ”的なくだりの物足りなさでも分かるように、私としては、もう少し理屈っぽい解説を楽しみにしていたのですが・・・。

 自身の経験には即しているだけにある程度の具体性はあるものの、結局はインタビューにあたっての“How to本”に終始していたとの印象です。
 残念ですね。



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