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挑む力 世界一を獲った富士通の流儀 (片瀬 京子/田島 篤)

(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)

 以前セミナーでお世話になった竹内弘高氏・野中郁次郎氏が紹介されている著作です。

 日本有数のICT関連企業である富士通が推進したいくつものプロジェクト、そのリーダの活躍を通して、目標必達を目指した富士通の「泥臭い」挑戦の姿勢を紹介していきます。

 本書で取り上げられた8つのプロジェクトですが、私にとって最も響いたのは、東京証券取引所の株式売買システム「arrowhead」構築の物語でした。
 私もいくつかのシステム開発に携わったことがあり、その中で感じた成功の秘訣と同じものを見つけたからでしょうか。

(p45より引用) 東証との一体感は、真内がそれまでのプロジェクトでは感じたことのないものだった。
危機感が共有できていました。・・・東証様がシステム開発のためにビルを借り、そこに我々も常駐しました。フロアは違いましたが、息づかいを感じられるというか、上にさえ上がればすぐに話ができました」
 優先順位も、共有できていた。
「今回のシステムでは、何を優先するのかが明確でした。機能を載せるとスピードが出ないような場合に、『両方やってくれ』という話にはなりませんでした」

 このくだりは、私の経験に照らしてもとてもよく分かります。
 受委託という形式的な契約関係のスキームはもちろん厳としてありますが、システム構築完遂という究極の目的は同一です。立ち位置はそれぞれ異なってはいても同じ船に乗った運命共同体です。
 「One Team,One Dream!」、これでなくては、決していいシステムを作り上げることはできません。

 そのほかにも、「東日本大震災の復興支援」に携わった生川慎二さんの経験も素晴らしいものです。
 生川さんは、被災現場で活動するNPOと連携しながら、被災地のリアルなニーズに合わせたICT活用に取り組んでいました。

(p97より引用) 生川は作業服で現地活動する。その胸ポケットの名刺入れには、会社が用意してくれた新しい名刺が入っている。所属は富士通株式会社災害支援特別チーム。本来の所属部署も、肩書きもない。
「そこに『マーケティング本部』と書かれた名刺を持って入ることは考えられませんでした。災害支援特別チームの名刺ならどこでも受け入れられました。肩書きは富士通の中でしか必要ない。被災現場では、行動する人かどうかで見られていました

 そこにあるのは、自分たちの持っているすべての力を復興支援に注ぎ込もうという強い想いでした。
 それを支えた山本正已社長の言葉も印象的です。

(p100より引用) 「被災地支援は競争ではない。いくら寄付したか、いくら無償にしたかを競う必要はない。本当に役に立つ、地に足の着いたことをやろう

 それから、もうひとつは「グローバル」に関する富士通の捉え方を垣間見ることができるコメント、富士通ブラジルの西口社長の経験を紹介したくだりです。

(p177より引用) 一つの仕様やルールを、世界の隅々まで渡り巡らせることではなく、その国を理解し、土地に応じて変更すること、そうするだけの柔軟性を持つことが、グローバルだというわけだ。

 これに続く「だから『グローバルなプロダクト』というのはあり得ないと思います」という西口氏の言葉はとても大事です。
 「グローバル展開を想定したプロダクト」というものはありうると思いますが、その「単一のプロダクト」がそのままの形で、世界各地で受け入れられるかといえば、決してそんなことはありません。

 この手の「短絡的グローバル思考」の過度な主張が気になっている昨今です。



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