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江田島殺人事件 (内田 康夫)

(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)

 かなり以前によく読んでいた内田康夫さん“浅見光彦シリーズ” ですが、このところ、私の出張先が舞台となった作品を、あるものは初めて、あるものは再度読んでみています。

 今回も “広島” を選んでみました。

 広島関係では、先に「後鳥羽伝説殺人事件」を読んだのですが、作品の舞台はピンポイントで私が出張で訪れた所ではありませんでした。なので、直接訪れたところが登場している作品を探し出してリベンジしたというわけです。

 ネタバレになるとまずいので内容には触れませんが、この作品の舞台となったは江田島は広島市内から瀬戸内海沿いに東に向かったあたり。最近では話題になった映画「ドライブ・マイ・カー」の中でもその風景が登場しています。

 作品のモチーフになった戦時下の「海軍兵学校」は、現在では海上自衛隊幹部候補生学校となっています。
 また、潜水艦訓練拠点でもあるそうで、私が訪れたのはそういった作品の舞台の近く、呉市側の海上自衛隊第1潜水隊群司令部のあたりだったのですが、海には何隻もの潜水艦が浮かんでいてなかなかに壮観でしたね。
 まさに、作中にこういった描写もありました。

(p27より引用) 広島湾を行き交う船の数は驚くほど多い。高速船やフェリーなど、宇品港を起点にする近距離旅客船も多いが、それに劣らず、貨物船の出入りが忙しい。・・・
 さらに、湾口の音戸ノ瀬戸を入ったところには呉の「軍港」もあって、潜水艦を含む艦船が常時十数隻も配備されている。

 さて、本書ですが、このシリーズには珍しく、内田さんの筆はかなり意欲的に政治的なメッセージを伝えています。
 中盤以降の陽一郎と光彦との会話や、

(p187より引用) 検察は政治に力において屈し、もはや二度と立ち上がることはないだろう。政治家の犯罪は途絶するどころか、むしろ巧妙化し、構造化し、肥大化する一方だ。
 この現実を前にしながら、庶民はなすすべがない。その無力感から、庶民自らが拝金主義に侵されてゆく。民主主義だから選挙によって改善すればいいなどという議論は、いかに虚しいものであるかを、庶民の多くが悟り、政治家の多くが悟った。政治家にとって、もはや怖いものはないかのごとく見える。彼らを罰するものは、「死の訪れ」のみであるかのように思える。

といったあたりもそうですし、エピローグの謎解きのパートでも、事件の背景となった主義主張を首謀者に滔々と語らせています。
 さらに、これでもか追い打ちをかけるようなラストのエピソードも含めると、それだけ、この作品のモチーフは内田さんにとって格別に思い入れの深いものだったということなのでしょう。

 ただ、このあたり、(「エンタメで政治的な主張は不似合い」などと言う気は毛頭ありませんが、)どうも・・・ちょっと “重いなぁ” と感じた「浅見光彦シリーズ」ファンもそこそこいたのではないかと思いますね。



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