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帝国ホテルの不思議 (村松 友視)

 「帝国ホテル」
 背筋を伸ばして構えてしまう響きですが、他方、私にとっては以前勤めていた会社がご近所さんということもあり、ちょっとした親近感も抱いているホテルです。

 本書は、作家村松友視氏が、帝国ホテルの様々な部門で働く30人への取材を通して、「帝国ホテル」の “帝国ホテルたる所以” を描いたものです。
 とても多彩で魅力的な人々の紹介とともに、サービス業の原点を振り返る上でもいろいろと勉強になるところがありました。

 その中から、客室課マネジャー小池幸子さんによる着物姿による “おもてなし” を紹介したくだりです。

(p32より引用) “おもてなし”はもちろん臨機応変、これまでの経験則や独特の勘、宿泊客の心のありようへの観察力、人間という不可思議な存在への読解力などの総動員が条件となり、過ぎたるは及ばざる以上のマイナスを呼ぶのだから、彼女が自然にこなすことを踏襲するのは至難のワザに違いない。小池さんが到達した「お客さまは十人十色ではなく、一人十色」という境地は、客室課の新人にとっては、気の遠くなるほどの高い地平であるにちがいない。

 生身のお客様と相対したことのある経験者にとっては、この「一人十色」という指摘は肌感覚として首肯できるところでしょう。

 もうひとり、格式と伝統を誇る帝国ホテルならではのスタッフ、会員制バー「ゴールデンライオン」のピアニスト矢野康子さんの言葉です。

(p159より引用) 矢野 百人のお客さまの中に、ひとりでも本物がいるってことをつねに想定して弾きますので。・・・
- ひとり、本物がいることを想定するっていうのは、大事なんでしょうね。
矢野 でも、自分がいちばん分かりますからね。よそ様がいろんなことをおっしゃってくださっても、自分の力ってのは自分がいちばん分かりますので。

 矢野さんは齢80。そのお歳になっても日々の研鑽を欠かさないプロフェッショナルの構えですね。

 そのほか、あまり気づかない裏方の方々という観点からは、「シューシャイン」のキンチャン「ランドリー」の栗林房雄さん「氷彫刻」の平田謙三さんらのお話は興味深いものがありました。

 帝国ホテルという一種独特の環境ならではのエピソード。それぞれの方々の半生の中では、帝国ホテルにめぐり合った縁は、偶然のはずが実は “必然” であったように感じました。



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