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エースの資格 (江夏 豊)

 206勝158負193セーブ。著者の江夏豊氏は、まさに先発・リリーフを通して「絶対的エース」でした。

 本書は、その江夏氏による「エース論」。
 当事者ならではの興味深いエピソードも含め、予想外?に正統派の江夏氏の考え方が開陳されています。

 野球関係の「エピソード」を語るとき、欠かせないキャラクタは何と言っても長嶋茂雄さん「ピッチャーはマイナス思考」というコンテクストの中でも早速の登場です。

(p69より引用) 無神経といったら失礼かもしれませんが、・・・あの長嶋茂雄さんもそれで成功した方です。バッターは無神経でも仕事ができるんですね。
 ただし、ピッチャーはやはり、無神経では務まらない。考えて投げなければいけない。・・・
 バッターが無神経でも成功するのは、つねに受け身だからです。極端にいえば、来たボールにただ反応すればいい。ピッチャーはそうはいきません。

 野球キャリアの後半は「絶対の守護神」として活躍した江夏氏ですが、高校を卒業後入団した阪神タイガースでは、村山実氏の後を継いだ正に「エース」、剛腕の先発投手でした。

 当時の江夏氏の数々の記録の中で「1シーズン401奪三振(世界記録)」という素晴らしい記録があります。その江夏氏が語る「理想的な三振」について。

(p98より引用) 仮に絶体絶命のピンチの状況に置かれて、もしねらって三振を取れるとしたら、空振りではなく、見逃し三振がいい。それも、できることなら三つ。アウトコースに「ボン、ボン、ボーン」で、すべて見逃しの三球三振がいちばんいい。
 こんな三球三振が、私にとっては最高の快感であり、喜びでした。

 意識したボール玉を振らせる投球術も持っていた江夏氏ですが、ピッチャーの鉄則はバッターに「フルスイングさせない」ことだと語ります。
 スイングさせてしまうと、当ればホームランもありうるからです。こう考えるあたりは、「マイナス思考」で「いつも打者を見て考えながらピッチングをしていた」という江夏氏の言葉と重なります。

 とはいえ、江夏氏のいう「マイナス思考」は受動的なものではありませんでした。
 最悪のことを頭において、それを避けるために、考え行動することを自らに課しました。そして、その姿勢を、野球界の若手選手に愚直に熱く訴えるのです。

(p246より引用) 私生活を含めてただ漠然と生きるよりも、自分で考えて工夫して、自分で感じて求めたいと思ったことに対して、勇気をもってぶつかっていく。
 私はつねづね、それが大事なことだと思っています。とくに、若い人にとっては。

 さて、最後に、私の世代で「エース」と聞いて私が思い浮かべる投手。
 もちろん江夏投手はその一人ですが、そのほかにも、鈴木啓示投手・山田久志投手らがいます。(稲尾和久さんの現役時代は知らないので)
 ただ、やはりなんと言っても、極めつけは「マサカリ投法」の村田兆治投手ですね。彼の真後ろ、センタの外野席から見ても、その剛速球のインパクトは強烈でした。



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