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ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉 (リンダ・グラットン)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 友人の評価が高かったので読んでみました。
 将来の“働き方”を問う内容です。

 著者の主張のスタートは、「これからの世界は『産業革命』以上の変化に直面する」という認識です。そして、その変化に伴い人々の「働き方」も大きく様変わりすると指摘しています。

(p20より引用) これから起きようとしている変化を突き動かすのは、五つの要因の複雑な相乗効果だ。五つの要因とは、テクノロジーの進化、グローバル化の進展、人口構成の変化と長寿化、社会の変化、そしてエネルギー・環境問題の深刻化である。これらの要因が組み合わさり、働き方の常識の数々が根底から覆る。

 これら5つの要因は、漫然として受け入れると私たちの将来を暗鬱たるものに貶めてしまいます。

(p164より引用) 暗い未来のシナリオが実現すれば、テクノロジーの進化にともない、私たちはいつも時間に追われ続け、バーチャル化が加速する結果、多くの人が深刻な孤独を味わうようになる。そのうえ、グローバル化の影響により、いわゆる勝ち組と負け組の格差が拡大し、グローバルな下層階級が新たに出現する。・・・家族の結びつきが弱まり、・・・大企業や政府に対する信頼感がむしばまれ、先進国では人々が幸せを感じにくくなる。地球の気温がさらに高くなり、海水面が上昇し、乏しい資源の争奪戦が激化する。

 しかし、今までの固定観念や行動パターン等を根本から「シフト」すると、同じ5つの要因が明るい未来を築く切り口ともなるのです。
 この明るい未来の創造に必要となるのが「3種類の資本」です。

(p232より引用) 第一の資本は、知的資本、要するに知識と知的思考力のことである。・・・未来の世界では、広く浅い知識をもつのではなく、いくつかの専門技能を連続的に修得していかなくてはならない。これが・・・〈第一のシフト〉である。
 第二の資本は、人間関係資本、要するに人的ネットワークの強さと幅広さのことである。・・・私たちは、孤独に競争するのではなく、ほかの人たちとつながり合ってイノベーションを成し遂げることを目指す姿勢に転換する必要がある。これが・・・〈第二のシフト〉である。
 第三の資本は、情緒的資本、要するに自分自身について理解し、自分のおこなう選択について深く考える能力、そしてそれに加えて、勇気ある行動を取るために欠かせない強靭な精神をはぐくむ能力のことである。・・・際限ない消費に終始す生活を脱却し、情熱をもってなにかを生み出す生活に転換する必要がある。これが・・・〈第三のシフト〉である。

 これら3つの「資本」の中で、さらなるテクノロジーの進展を背景にした情報化の流れという観点から、特に私が興味深く思ったのが「ビッグアイデア・クラウド」というコンセプトでした。
 これは、第二の資本である「人間関係資本」のなかで、「ポッセ(頼りになる同志)」と対比する形で提示されています。

(p306-308より引用) もし、あなたが解決しなくてはならない課題が大がかりで、複雑に入り組んでいて、イノベーションを必要とするのであれば、ポッセは頼りにならない。必要なのは、スケールが大きくて斬新なアイデアだ。そういうアイデアの源になりうるのは、多様性に富んでいて大規模なコミュニティ-すなわち、ビッグアイデア・クラウドである。・・・
*ビッグアイデア・クラウドは、自分の人的ネットワークの外縁部にいる人たちで構成されなくてはならない。友達の友達がそれに該当する場合が多い。自分とは違うタイプの人間とつながりをもつことが重要だ。
*ビッグアイデア・クラウドは、メンバーの数が多いほどいい。・・・

 こういった集まりをリアルな世界だけで獲得するのはなかなか難しいですね。インターネットの発達を背景にしたソーシャル・ネットワーク上の繋がりが不可欠になるでしょう。

 さて、本書を読み終わっての感想ですが、評判どおり良書だと思います。
 わが身を振り返っても、いろいろと考えさせられる内容でした。私自身の今後をデザインする上でも刺激になったのですが、本書で取り上げられている「3つのシフト」を必要とする真っ只中の世代が、私の娘たちの世代であることもその一因です。

 著者がいう「今後の働き方に影響を与える『五つの要因』」は、すべて現在の労働環境をより活性化した流動的なものに導きます。この流動化は「可能性」と裏腹なのですが、その可能性の結果は必ずしもみんながHappyになるというわけではありません。「多様な選択肢からの自主的な取捨選択」により大きな振れ幅があるのです。

 自分の将来を他律的要因に委ねず、自己の決断によって規定していくという点は、より「機会の公平性」を高める方向に向かうことでもあり望ましいものだと思います。
 ただ、やはり自己責任は(当たり前ですが)すべてを自責とする「厳しい」姿勢ですから、改めて自分の娘たちのことを思うと、正直、なかなかスキッとしない心持ちになってしまうのです・・・。(これでは、ダメなのは分かっているのですが・・・)

(注:2023年1月の今、2点、追加のコメントです。
 まず一点目は、新型コロナウィルス禍の影響です。本書が書かれたころには全く姿かたちがなかった外的要因ですが、この影響で、今日の世界中の人々の「働き方」が大きな影響を受けました。進んでいた変化が加速されたものもあれば、全く新たなフェーズに突入したところもあります。
 そして二点目、“自己責任”論の弊害です。真に自責に帰すことができない要素、さらにはその原因がむしろ“公の無策”によるものが目立って生起してきました。「貧困」「格差」「分断」といった社会課題は、“自己責任”という短絡的な議論に収斂させるべきではありません。)



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