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ユニクロ思考術 (柳井 正 監修)

 ユニクロ、近年、最も注目されている企業のひとつです。

 私の家でも、毎土曜日は必ず新聞の折込チラシに目を通すとても身近な企業ですし、娘も大学生時代にアルバイトをしていました。また、以前、一緒にプロジェクトを推進したコンサルティングファームの方が数ヶ月前(注:2009年当時)執行役員で転職したこともあって、個人的にも気になっている企業です。

 さて、本書ですが、ユニクロのビジネスに関わっている多彩な人々の話を取りまとめたものです。

 まずは、ユニクロのブランドデザインに関わっているアートディレクターの佐藤可士和さんの言葉です。

(p18より引用) 僕の仕事の場合は、お医者さんの問診と同じです。まずはクライアントから徹底的に話を聞くことから始めます。自分たちのブランドを世の中にどう認識してもらいたいのか?本来そのブランドが持っていたはずの本質とは何だったのか、その上でいま課題になっている部分は何だろうか。それらがお互いはっきりと見えてくるまで話し合うわけです。この過程を抜きにして、なんとなく新しいイメージだけをデザイン的につけ加えたって、なんにもならない。・・・デザインは一人歩きはできない。まずは問診ありき、です。

 私は、コーポレートデザインという仕事について何も知識がなかったので、このコメントは「なるほど」という印象です。

 店舗デザイン・インテリア等は超一流のデザイナーが担当しつつも「ベーシック」を一貫したポリシーとして設定。ユニクロは「基本」を大切にする会社のようです。
 ソーホーニューヨーク店を開店する前のロンドンでの教訓を、堂前氏(上席執行役員:当時)はこう語っています。

(p130より引用) ロンドンで学んだことはもうひとつあります。ユニクロの基本にあるベーシックな商品をどうやって手にとってもらうか、ということです。ベーシックな商品というのは、最終的には買ってもらえるものであることは間違いない。ところが、ベーシックなものだけでお客さんにお店に入ってきてもらえるか、となると話は違ってくるのです。・・・
 ファッションの要素、トレンドの要素は必要不可欠なのです。・・・そうは言っても、ベーシックがユニクロの独自の強みであることは間違いないので、これまで以上にベーシックは強化して、ユニクロ独自の強みとして打ち出していくつもりです。

 とはいえ、海外の旗艦店のコーディネートやYouTube・ブログパーツと連動させたウェブマーケティング等を見ると、ユニクロは、先進的な取り組みにアグレッシブにチャレンジし動き続けていることも事実です。

 さて、私の家でも、駅チカのテナントビルにはいっている店や車で行く郊外店で、おそらく1ヶ月に最低1回は何か買っています。ただ、やはりそれは「普段着」を買うためです。

 そういう私のようなユニクロ感をもつ消費者からみると、やはり、「銀座」にユニクロは似合わない、“ブランドイメージの相殺” だと感じてしまいます。
 こういった声に対してのマーチャンダイジング部中島氏の言葉です。

(p194より引用) 銀座店はちょっと値段を高く設定した商品を売ってみようなんてことはまったく考えていません。商品を買ってくださったときに感じていただける満足感は、これまでどおりユニクロならではのものにしたい。ただ、銀座のお店にきた高揚感があって、お店にいるだけでも楽しい、ユニクロで待ち合わせをしたくなる、そういうお店にしたい。・・・
 お店が変わっても、売っているものは全然変わらないじゃないか、とガッカリされることはないと思っています。いろんな意味で「かわり映え」のする店になったはずです。「ユニクロが銀座に?どうして?」と思われた方にこそ「なるほどね」と思っていただける店。・・・

 最後に、本書を読んで印象に残ったフレーズを書き止めておきます。前職がトヨタ勤務の永井氏の言葉です。

 まずは、自責の発想から生み出されるカイゼンスピリットについて。

(p238より引用) 「こんなにいい商品なのに何で売れないんだ」という言い方は、売れない理由をお客様のせいにしています。しかし、売れないのには必ず理由がある。お客様のせいにしてしまったら、改善する余地が残っていても、商品がそれ以上よくなることはありません。クルマをつくるときに、そういう発想をしない哲学が、トヨタの社員のひとりひとりにDNAとして浸透しているんですね。

 もうひとつ、関連会社との長期的な関係を「品質の作りこみ」の重要要素と位置づける考え方について。

(p247より引用) 私たちが海外の工場でやっているのは「取り引き」ではなくて「取り組み」なんだ、そう考えながらやっています。「取り引き」という考え方では、何社かの工場で見積もりを出させて、一番安いところを選べばいいという発想になってしまう。そうではなくて、お互いに知恵を出し合い、将来も見据えて、最善のかたちで最高品質の商品をつくりだすような「取り組み」。そういう対等な関係を築き上げることが大事なんですね。短期につきあっておいしいところだけ取ってしまったらおしまい、というのでは、お互いに蓄積されてゆくものがない。・・・使い捨て的な取り引きでは、いい商品ができるはずがありません。

 このあたりはいかにもトヨタマンらしい言い回しであり基本思想ですね。良い参考になります。



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