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あたらしい戦略の教科書 (酒井 穣)

 「戦略」といえば、よく「ビジョン」→「戦略」→「戦術」という構造のなかで位置づけられますが、本書において著者酒井穣さんは、「戦略」と「戦術」とを区別していません。
 「戦略」を「現在地と目的地を結ぶルート」と捉えています。ルートですから実行されなくては意味がありません。その点で本書でいう戦略は、現場目線での「実行」に直結した「ボトムアップ戦略」です。

(p36より引用) 戦略の存在意義には、目的地にたどり着くためのツール以上のものがあります。
 極端に言うと、仮に目的地にたどり着けないとしても、目的地と現在地とを結ぶための戦略を育て続けるという態度が、業績を向上させるのです。

 戦略の「実行」は、策定者ひとりだけでは不可能です。当然、戦略をそれに関わるメンバと共有し、彼ら彼女らの「実行」を促すことが必要になります。

(p134より引用) 究極的には、戦略とは、コミュニケーションを活性化させるための道具です。

 そのための方策の一つとして、著者は「戦略のキャッチコピー化」を薦めます。戦略のエッセンスを「短くて覚えやすいフレーズ」にして関係者に落とし込むのです。
 その場合のポイントは3つです。

(p169より引用)
 (1) 全社の部門を越えて、「集中すべきポイント」が明確になっている
 (2) 社員の行動が正しいものであるかどうかが「判断する基準」になる
 (3) 「具体的な方向性」を示しつつも、そこから先の「判断は個々の現場」に任せる

 そのほか、本書で示された「戦略の実行」に関する示唆のうち、ちょっと気になったものを以下に覚えとして記しておきます。

 まず、戦略の策定者にとっての「はじめの一歩」について。

(p54より引用) 戦略家が取るべき「はじめの一歩」とは、できる限り正確に未来を予測するということ、すなわち「未来の不確実性」を下げることによって、「戦略の難易度」を下げるというアクションだということです。

 戦略とは基本的に「未来」を扱うものですから、「未来に関する情報」が最重要だという考え方です。

 次に、勘違いの例としてよく指摘される「競合に対する姿勢」について。

(p73より引用) 自分が競合を観察している合間にも、競合は顧客を観察しています。競合と競うべきなのは「どちらがより顧客を理解しているのか」という一点においてこそなのですから、競合のことばかり気にしていては勝敗は戦う前から決まっているようなものです。

 「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という有名な孫子の格言も、「敵」を「競合」と見るのか、(相対する相手との意味で)「顧客」と見るのかによって適否の評価も変わってきます。

 最後に、「顧客のクレーム」の活用の肝についての著者のコメントです。

(p105より引用) 最近では、顧客からのクレームこそが宝の山であると気が付いた企業は、それをデータベース化しているようですが、それだけで満足してはなりません。
 そこから数多くの定性的な意見に見られる共通の何かを引き出すのに必要な力は、数学的な力ではなく、むしろ国語力です。

 定量的なデータの把握はITの得意とするところですが、兆しを捉える力は専門家の感覚器官だということですね。


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