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霞が関のリアル (NHK取材班)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 いつも利用している図書館の新着本リストで目に付いたので手に取ってみました。

 政界スキャンダルや新型コロナ禍対応等に係る国会対応で霞が関官僚の常軌を逸した労働実態が話題になっていますが、本書は、昨今の「中央官僚の実態と官僚機構の構造的課題」をレポートしたものです。

 「NHK取材班」とあるので、ちょっと期待して読んでみたのですが、正直なところ、まったく期待外れでした。
 対象を捉える「切り口」や取り上げられている「事実」にも何ら目新しいものはなく、記事そのものはといえば、“調査報道”に取り組むぞという気概はあるのかも知れませんが、その内容は到底そのレベルには達していません。

 本書の「あとがき」で取材班デスクの大河内さんはこう記しています。

(p188より引用) その異常な働き方を改めて認識する一方、官僚たちを追い詰めているのは単に物理的な時間だけではないことも強く感じた。
 それを解き明かそうと、私たちは官僚組織を構造的に理解しようと心がけた。取材も働き方にとどまらず、具体的な業務内容や霞が関独特の文化にまで広げていった。それは各省庁を縦割りにではなく横断的にみることで、そこに内在する普遍的な問題点を抽出したいと思ったからだ。

 しかし、この言に反して、正直、本書の取材レベルはとてもプアです。取材対象とのメールでのやりとりや簡単なインタビューで得た表層的な情報を並べているだけです。

 プロの記者として、取材者らしく独自で動いて、事実の背景や根本原因をこれでもかと深掘りしようと苦闘した跡が認められません。
 「前例文化」「紙文化」が問題というのなら、もっと具体的に、どうしてそういう文化が払拭されないのか、とはいえ改革にチャレンジした動き、たとえば「前例を破った」とか「ペーパレス化した」とかの実例はなかったのか、それは今どうなっているのか、頓挫したのならその原因は何か等々、いくらでも深掘りする材料はあるはずです。

 霞が関の人事制度を取り上げた項の「締め」はこういったものでした。

(p131より引用) この職員が最後につぶやいたことばが印象的でした。
「一職員がこんなことを考えていても、霞が関の組織はなかなか変えられないのです。今のシステムで偉くなった幹部に改革の必要性を理解してもらうのが難しいし、私自身も2年で異動していきますから・・・。」
 こうした人事制度の問題、いつまでも放置できないと思います。皆さんの身の回りではどうですか。人事の仕組みに疑問はありませんか?

 素人が失礼な物言いで申し訳ないのですが、いくら何でもこれではダメでしょう。
 人事制度に問題があるのなら、何がその本質的な原因なのですか? 役所は具体的にどうすべきなのでしょう? そのためにはどんな課題があって、それに対して、国民や政治家といったステークホルダーたちはどうすべきなのですか? さらに、あなた自身はマスコミの立場としてどうしようと思っているのですか?

 それを記者自身で明らかにしようとせず、こんな感想と問いかけを読者につぶやかれても・・・、まるで “他人事” ですね。



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